30秒でわかる、この記事の要点
- 「安全性試験済み」は、どの層の話かで意味が変わる。原料(ドナー)・工程(製造環境)・製剤の3層のうち、製剤の無菌試験だけでもこう表示できてしまいます。
- 3つの試験は、互いの穴を埋める関係にある。無菌試験は「生きて増える菌」を、マイコプラズマ否定試験は「その網をすり抜ける菌」を、エンドトキシン試験は「死んだ菌が残した成分」を見ています。
- 確認すべきは「全ロットか・ドナーまでか・報告書が出るか」の3点。ロット番号入りの試験報告書(COA)を請求すれば、表示の裏付けを具体的に確かめられます。
まず全体像 — 試験は3つの層に分かれる
培養上清液・セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)の安全性試験は、原料・工程・製剤という3つの層に分かれます。層が違えば、防いでいるリスクも違います。
野菜にたとえるなら、畑の土壌検査(原料)・工場の衛生管理(工程)・出荷前の検品(製剤)という関係です。出荷前の検品だけを指して「検査済み」と表示することもできるため、言葉の上では区別が付きません。
直感的なポイント
この区別が実務上いちばん効きます。製剤の無菌試験だけを実施して「安全性試験済み」と表示することは可能です。それが虚偽というわけではありませんが、ドナー由来の感染症リスクについては何も言っていません。だからこそ、どの層を、どの範囲で調べたのかまで確認する必要があります。
1. 原料 — ドナー検査は「入口」でしか止められない
結論はシンプルです。細胞を提供したドナーに由来するリスクは、完成した製剤を調べても見つけられません。ウイルスは通常の無菌試験では検出されず、製造工程で除去できる保証もないためです。
したがってこの層は、細胞を受け入れる前の検査で「そもそも持ち込ませない」ことがすべてになります。当社は、生物由来原材料の製造規定に沿って次の検査を実施しています。
| 対象 | 検査項目 |
|---|---|
| ウイルス | ヒト免疫不全ウイルス(1型・2型)/B型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルス/ヒトTリンパ球向性ウイルス(1型・2型) |
| 細菌 | 梅毒 |
| プリオン | ヒト伝達性海綿状脳症 |
ヒト伝達性海綿状脳症は問診による除外を含みます。ウシ血清を使わない設計であることも、動物由来のプリオンリスクを避けるうえで意味を持ちます。
2. 工程 — 試験ではなく、混入の確率を下げる層
この層の要点は、試験ではなく設備と運用の話だという点です。混入をあとから見つけるのではなく、混入する確率そのものを下げます。
当社はクラス10,000のクリーンブース内に置いたクラス100の安全キャビネットで製造し、再生医療等製品の製造に推奨される環境基準に沿って運用しています。クラス100とは、1立方フィートの空気中に0.5μm以上の粒子が100個以下という水準です。
注意したいのは、清浄度は設備の「等級」であって、試験の結果や認証とは別のものだという点です。この層は確率を下げる仕組みであり、製品そのものの状態は次の製剤の層で確かめます。
3. 製剤 — 3つの試験は、それぞれ別のものを見ている
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。3つの試験は「念のため重ねている」のではなく、それぞれ違うものを見ているから、全部が必要という関係にあります。
無菌試験 — 「生きて増えるもの」を見る
検体を培地で培養し、微生物が増えてくるかを見る試験です。種をまいて、芽が出るかを確かめる検査だと考えると分かりやすくなります。細菌や真菌の混入を検出します。
検出しないもの:芽の出ないもの、つまりその培養条件で増えない微生物です。マイコプラズマ(細胞壁を持たない非常に小さな細菌)がその代表です。また、すでに死んでいる菌も増えないため検出されません。
マイコプラズマ否定試験 — 網の目をすり抜ける菌を捕まえる
マイコプラズマは細胞壁を持たない細菌で、非常に小さく、通常の無菌試験の培養条件では検出されません。網の目より小さい魚が網をすり抜けるように、無菌試験に適合していてもマイコプラズマは否定できないため、別の試験が要ります。
細胞培養においては、汚染に気づかないまま培養が継続されやすい点が問題になります。だからこそ、無菌試験とは別枠での確認が欠かせません。
エンドトキシン試験 — 「死んだ菌が残したもの」を見る
エンドトキシン(細菌に由来する発熱性物質)は、グラム陰性菌(外膜を持つ種類の細菌)の細胞壁の成分です。焚き火が消えても灰が残るように、菌が死んでも残ります。つまり、無菌試験に適合していてもエンドトキシンは含まれ得ます。
当社の幹細胞セクレトームは 0.1 EU/mL 未満です。
直感的なポイント
3つの試験は、互いの穴を埋め合う関係にあります。無菌試験は生きている菌を、マイコプラズマ否定試験は無菌試験で見えない菌を、エンドトキシン試験は死んだ菌が残した成分を見ています。どれか1つだけでは、他の2つが見ているものについて何も言えません。
エンドトキシンの「未満」をどう読むか
結論から言うと、「0.1 EU/mL 未満」のような表記を比較するときは、数字そのものよりも数字の出どころが重要です。確認していただきたい点は2つあります。
1つ目は、その数値が「検出限界」なのか「規格値」なのかです。「未満」は、その測定系で検出できなかったという意味の場合があります。目盛りの粗いはかりほど「量れないほど軽い」と言える範囲が広がるのと同じで、測定系の感度が低ければ、より大きな数値でも「未満」と書けてしまいます。
2つ目は、単位あたりの基準です。EU/mL は液量あたりの値です。同じ量の塩でも、コップ1杯とバケツ1杯のどちらに溶かすかで濃度が変わるように、フリーズドライ製剤のように溶解して使うものでは、何mLに溶解した状態での値なのかによって意味が変わります。
供給元に確認したい3つの質問 — 試験報告書(COA)で確かめる
ここまでの内容は、3つの質問に集約できます。当社は全製品にロット別の試験報告書(COA)を発行し、製品に同梱しています。記載しているのは、無菌試験・エンドトキシン・マイコプラズマ・タンパク濃度の結果です。
供給元を比較される際は、次の順にお尋ねになることをお勧めします。
-
全ロットで実施しているか、代表ロットのみか
ロットごとに測っていなければ、いま手元にある製品について言えることはありません。
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ドナーの検査まで含んでいるか
製剤の試験だけでは、原料の層のリスクは何も担保されません。
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ロット番号の入った報告書を、実際に出してもらえるか
項目名の一覧ではなく、報告書そのものを請求してみてください。出せるかどうかで運用の実態が分かります。
このほか当社では、製品安全データシート(MSDS)とパッチテストを実施項目に含めています。
試験項目そのものだけでなく、供給元に何をどう確認するかは供給元に確認すべき6項目に、用語と製法の全体像はセクレトームとはにまとめています。
よくあるご質問
無菌試験に適合していれば、細菌は含まれていないと考えてよいですか。
無菌試験は、培地で培養したときに増えてくる微生物を検出する試験です。培養条件で増えない微生物は検出されません。マイコプラズマがその代表で、通常の無菌試験では見つからないため、別途マイコプラズマ否定試験を実施します。また、すでに死んでいるグラム陰性菌(外膜を持つ種類の細菌)は無菌試験では検出されませんが、その細胞壁成分であるエンドトキシンは残ります。3つの試験は互いに別のものを見ているため、いずれも必要です。
「安全性試験を実施」とだけ書かれている場合、何を確認すればよいですか。
どの層を調べた試験かをご確認ください。安全性試験は、原料であるドナーの検査、製造工程の管理、最終製剤の試験という3つの層に分かれます。製剤の無菌試験だけを指している場合と、ドナーの感染症検査まで含む場合では、担保している範囲がまったく違います。あわせて、全ロットで実施しているのか代表ロットのみかもご確認ください。
試験報告書(COA)は毎回発行されますか。
全製品にロット別のCOAを発行し、製品に同梱してお届けしています。無菌試験・エンドトキシン・マイコプラズマ・タンパク濃度の結果を記載しています。
本記事は品質管理と試験項目について説明したものです。当社の幹細胞セクレトームは研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。