30秒でわかる、この記事の要点
- 「セクレトーム」に公的な定義はない。供給元ごとに意味が違うため、買う側が自分の物差しを持って確認する必要があります。
- 3つの言葉はマトリョーシカの関係。いちばん外側が幹細胞培養上清液、その内側が「細胞の分泌成分だけ」のセクレトームで、エクソソームはさらに内側にある成分のひとつです。
- 定義は宣言ではなく、試験報告書で確かめる。当社は「分泌成分のみ」「ウシ血清不使用」など6つの条件を課し、結果を製造単位(ロット)ごとの試験報告書で開示しています。
1. まず結論 — 3つの言葉は「入れ子」の関係
「幹細胞培養上清液」「セクレトーム」「エクソソーム」。この3つは並列に比べられるものではなく、マトリョーシカのような入れ子(包含)の関係にあります。まず、この位置関係を1枚の図で押さえてください。
いちばん外側の幹細胞培養上清液は、幹細胞を培養したあとの液に含まれるものすべてを指します。細胞が分泌した成分に加えて、培地由来の成分、ウシ血清などの動物由来成分、培養のために加えた因子、培養中に生じた細胞破片やアンモニアが同居している場合があります。
その内側にあるセクレトームは、このうち細胞が分泌した成分だけで構成されたものを指します。つまり「上清液かセクレトームか」は別物どうしの比較ではなく、外枠のどこまでを製品に含めるか、という線引きの問題です。
いちばん内側のエクソソームは、セクレトームに含まれる膜小胞(細胞外小胞)の一種です(詳しくはエクソソームとは何か)。セクレトームと並ぶ別のものではありません。エクソソーム製剤とはセクレトームから膜小胞だけを取り出したもので、取り出す工程でサイトカイン(細胞どうしの情報伝達を担うタンパク質)や成長因子などの可溶性因子は失われます(詳しくはエクソソームだけを取り出すと、何が失われるのか)。
直感的なポイント
「エクソソームか、セクレトームか」という二者択一は、「いちばん小さい人形か、マトリョーシカ全体か」と聞いているのと同じで、比べ方として成り立ちません。問うべきは優劣ではなく、膜小胞だけを取り出すのか、分泌成分の総体を残すのかという設計の違いです。
2. 「セクレトーム」に公的な定義はない
ここが出発点です。「セクレトーム」という語には、公的な定義も業界標準もありません。薬機法上の区分でもなければ、学会が定めた基準でもありません。
だから供給元ごとに説明が食い違います。上清液とほぼ同義で使う例もあれば、濃縮の度合いを指して使う例もあり、どれが間違いとも言えません。共通の物差しがないまま長さを言い合っているようなもので、言葉だけを突き合わせても議論は噛み合わないのです。
したがって、買う側が自分の物差しを持つしかありません。次に示すのは、当社が自社製品に課している定義です。業界の共通基準ではありませんが、何を確認すべきかの手がかりになります。
3. 当社が「セクレトーム」と呼ぶ6つの条件
結論から示します。当社は次の6つをすべて満たすものだけを「セクレトーム」と呼んでいます。番号は識別のためのもので、順序や優先度を表すものではありません。
- 1
細胞または組織から分泌された成分のみで構成される
- 2
回収用培地に、サイトカインや成長因子が残存しない
- 3
タンパク質、ペプチド、核酸、エクソソームなどの膜小胞を含む
- 4
アンモニア、重金属などの有害物質、死細胞などの不純物を含まない
- 5
ウシ血清を使わない
- 6
成分の裏付けがある(タンパク質定量、主要サイトカイン測定、エクソソーム解析など)
直感的なポイント
実務でとくに効いてくるのは条件の2と5です。だしを取る前の水に最初から調味料が入っていたら、できあがったスープの味が素材から出たものなのか、後から足したものなのか、飲んだだけでは分けられません。同じように、回収用の培地に成長因子が残っていると、成分表の数値が「細胞が分泌した量」なのか「もともと培地に入っていた量」なのかを区別できなくなります。
なぜこの6つなのか — 性質の違う3組
6つの条件は、性質の違う3組に整理できます。「何を入れないか」「何を残すか」「確かめられるか」の3つです。
1・2・5 は「何を入れないか」の条件です。製品に含まれる成分の出所を、細胞が分泌したものだけに限定するための線引きです。これは回収後の処理では担保できず、培地と培養工程の設計で決まります。
3 は「何を残すか」の条件です。不純物を減らすことだけを追求すると、目的の成分まで失われます。膜小胞を含む多様な分泌成分を保持したうえで不要物を排除する、という両立が求められます。
4・6 は「確かめられるか」の条件です。1から3をどれだけ丁寧に設計しても、測定して書面で示せなければ、購入する側には確認のしようがありません。試験報告書として提出できることまでを含めて条件としています。
6つそれぞれを供給元にどう確認すればよいかは、供給元に確認すべき6項目で解説しています。
4. どう作るか — 「後から除去」ではなく「最初から入れない」
結論から言うと、6つの条件を満たせるかどうかは回収後の精製技術ではなく、そもそも不要な成分を持ち込まない培地・培養工程の設計で決まります。濁った水を後から濾過してきれいにするより、最初からきれいな水を使うほうが確実、という考え方です。
製法は大きく3つに分かれます。何も処理しない上清液、回収後に不要成分を除去する上清液、そして最初から入れない設計です。中間の「後から除去する」方式には、完全な除去が難しいという限界があります。
3製法の残留成分の違いは、幹細胞培養上清液とセクレトームの違いで図解しています。分泌する側の細胞の状態についてはなぜ培養細胞は「老ける」のかをご覧ください。
培地の設計
当社は、他動物由来原料フリー・血清フリー・プロテインフリー(培地にタンパク質を加えない設計)の培地をゼロから開発しています。回収用の培養液は培地由来タンパクを含みません。条件の2と5は、この培地設計そのものによって満たされます。
製造環境
クラス10,000のクリーンブース内に置いたクラス100の安全キャビネットで製造しています。再生医療等製品の製造に推奨される環境基準に沿った運用です。
担当者
製造に携わるスタッフは全員、医学・薬学の博士号取得者です。国立大学などの研究機関で10年以上の研究実績をもつ者が、開発と製造を担当しています。
5. どう確かめるか — 試験報告書で示せる品質基準
定義と製法をどれだけ説明しても、それだけでは確認になりません。最後に効くのは条件6の「成分の裏付け」、つまり測定した結果を書面で示せるかどうかです。当社が実施している試験は次のとおりです。
| 区分 | 試験項目 |
|---|---|
| 製剤の試験 | 無菌試験/マイコプラズマ否定試験/エンドトキシン試験 |
| 原料(ドナー)の検査 | ヒト免疫不全ウイルス(1型・2型)/B型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルス/梅毒/ヒトTリンパ球向性ウイルス(1型・2型)/ヒト伝達性海綿状脳症 |
| 成分の分析 | タンパク質定量/主要サイトカイン測定(EGF・VEGF・TGF-α/β・IGF など)/エクソソームに含まれるmiRNAの解析 |
| その他 | 製品安全データシート(MSDS)の発行/パッチテスト |
生物由来原材料の製造規定に沿って実施しています。試験結果はロットごとの試験報告書(COA)でご確認いただけます。
直感的なポイント
成分分析では、目的の成分を測るだけでなく、炎症を引き起こす炎症性サイトカイン(IL-6・TNF-α)が定量限界以下であることも確認しています。何が入っているかと同じくらい、何が入っていないかが重要だからです。
6. 剤形と保管 — 冷凍庫の有無で選択が変わる
剤形はフリーズドライと液体凍結の2種類があり、必要な保管設備が変わります。フリーズドライは暗所常温(40℃まで)で保管でき、冷凍庫を持たない施設でも導入できます。液体凍結は冷凍保存(−20℃以下)が必要です。
保管条件と在庫運用の詳細は、フリーズドライがもたらす常温管理にまとめています。
まだ分かっていないこと — 測れることと、分かっていることは別
ここまでは、定義と製法と、測定できる項目の話です。測れることと、分かっていることは別です。比較検討にあたっては、次の3点も併せてご認識ください。
- 成分の一覧は、効果の説明にはなりません。サイトカインの定量値は「何がどれだけ含まれるか」を示すもので、それがどう働くかを示すものではありません。
- ロット間の変動はゼロにはなりません。原料が生体由来である以上、完全に同一の組成は再現できません。だからこそロットごとに測定し、報告書を添付しています。
- 「セクレトーム」という語自体が、まだ固まっていません。本記事の6条件も業界の合意ではなく、当社の定義です。数年後には別の整理が標準になっている可能性があります。
供給元を選ぶ際は、断定的な説明よりも、どこまでが測定された事実で、どこからが推定なのかを区別して話せるかを見ていただくのが確実です。
よくあるご質問
セクレトームと幹細胞培養上清液は、呼び方が違うだけですか。
違います。幹細胞培養上清液は、培養したあとの液に含まれるものすべてを指します。細胞が分泌した成分に加えて、培地由来の成分、動物由来成分、培養のために加えた因子、細胞破片などが同居している場合があります。セクレトームは、このうち細胞が分泌した成分だけで構成されたものを指します。ただし、この語に公的な定義はないため、同じ語をより広い意味で使う例もあります。
エクソソーム製剤とセクレトームは、どちらを選べばよいですか。
この2つは並列に比べられるものではありません。エクソソームはセクレトームに含まれる成分のひとつで、エクソソーム製剤とはセクレトームから膜小胞だけを取り出したものです。取り出す工程で、サイトカインや成長因子などの可溶性因子(液に溶けた状態で働く成分)は失われます。何を残したいかによって選択が変わります。
「セクレトーム」に業界の共通基準はありますか。
ありません。公的な定義も業界標準も存在しないため、供給元ごとに説明が異なります。本記事で示している6つの条件は、当社が自社製品に課している定義です。比較検討の物差しとしてお使いください。
本記事は用語の定義・製造方法・品質管理について説明したものです。当社の幹細胞セクレトームは研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。