30秒でわかる、この記事の要点
- エクソソーム製剤は「取り出した一部」。培養上清(セクレトーム)から膜の袋だけを分け取ったもので、液に溶けた成分(可溶性因子)は付いてきません。
- 「一部」は「全体」と同じ結果を示しませんでした。3つの画分を同じ条件で比べた査読論文2本のいずれでも、膜の袋だけの画分(分けて取り出した一部)は、取り分ける前の全体と同じ細胞の変化を起こしませんでした。
- ただし2本とも試験管内の実験。ヒトでの優劣や当社製品の効果を示すものではなく、読み替えてよい範囲を本文で確認します。
1. エクソソーム製剤とは、スープから「具」だけをすくったもの
要するに、比べているのは「全体」と「そこから分け取った2つの一部」です。まずこの関係を押さえると、2本の研究の設計が一気に読みやすくなります。
セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)には、細胞が分泌した可溶性因子(サイトカイン・成長因子など)と膜小胞(エクソソームを含む細胞外小胞)の両方が含まれます。料理にたとえると、セクレトームは具も出汁も入ったスープです。エクソソーム製剤は、そこから具(膜小胞)だけを網ですくい上げたものにあたり、すくった網の上に、スープに溶け込んだ出汁は残りません。
研究では、この関係を次の3つの画分に分けて比較しています。
直感的なポイント
「エクソソーム」と「セクレトーム(培養上清液)」は、同じ液の言い換えではなく「一部」と「全体」の関係です。どちらの形の製品を選ぶかは、液に溶けた可溶性因子を残すかどうかの選択でもあります。エクソソームそのものの定義や構造は【完全解説】エクソソームとは何かにまとめています。
2. 研究1:炎症を起こした腱細胞では「全体」が最も大きく働いた
1本目の結論は明快です。3つの画分のうち、細胞の遺伝子発現をもっとも大きく動かしたのは「全体」でした。
ウィーン獣医大学のグループが2023年に発表した研究です[1]。馬の骨髄由来間葉系幹細胞を無血清条件で48時間培養し、回収した培養上清をサイズ排除クロマトグラフィー(大きさの違いで成分をこし分ける方法)で分けました。得られたのは、全体(CM)・エクソソーム画分(EVs)・可溶性タンパク画分(PF)の3つです。
これを、TNF-α と IL-1β で炎症を起こさせた馬の腱細胞に投与し、遺伝子の発現がどう変わるかを比べました。結果は、全体を投与したときに、炎症させた対照群からの遺伝子発現の変化がもっとも大きくなりました。エクソソーム画分単独でも、可溶性タンパク画分単独でも、全体には及びませんでした。
この結論は、論文の題名そのものに書き込まれています。
“Mesenchymal Stem Cell Conditioned Medium Modulates Inflammation in Tenocytes: Complete Conditioned Medium Has Superior Therapeutic Efficacy than Its Extracellular Vesicle Fraction”
間葉系幹細胞の培養上清は腱細胞の炎症を調節する — 完全な培養上清は、その細胞外小胞画分よりも高い治療的有効性を持つ
Soukup R, et al. Int J Mol Sci. 2023;24(13):10857 の論文題名より(試験管内の実験に基づく表題です)3. 研究2:免疫細胞では「取り出した袋」より「残りの液」が働いた
2本目では順位が入れ替わります。全体とほぼ同等に働いたのは、エクソソームを取り除いた「残りの液」のほうでした。
もう1本は2022年の研究です[2]。今度はヒトの細胞を使っています。ヒト羊膜由来の間葉系間質細胞(間葉系幹細胞とほぼ同義)から、全体・エクソソーム画分・エクソソーム除去画分を用意し、ヒトの末梢血単核球に投与して免疫調節の働きを比べました。
結果、エクソソーム除去画分が、全体とほぼ同等の免疫調節作用を示しました。一方でエクソソーム画分は、細胞に取り込まれていたことが確認されているにもかかわらず、測定した指標ではほとんど作用が見られませんでした。「届いていなかった」のではなく、「届いたうえで、測った指標は動かなかった」という点が読みどころです。
| 項目 | 研究1(2023) | 研究2(2022) |
|---|---|---|
| 細胞の由来 | 馬の骨髄由来間葉系幹細胞 | ヒト羊膜由来間葉系間質細胞 |
| 投与した相手 | 馬の腱細胞(炎症を誘導) | ヒトの末梢血単核球 |
| 見た指標 | 遺伝子発現の変化 | 免疫調節の作用 |
| もっとも作用が大きかった画分 | 全体 | エクソソーム除去画分(全体とほぼ同等) |
| エクソソーム画分単独 | 全体を下回った | ほとんど変化が見られず |
| 試験の形式 | 試験管内 | 試験管内 |
4. 2本が共通して示していること — 「一部」は「全体」の代わりにならなかった
結論はこうです。種も、投与した相手も、見た指標も違う2つの系で、「膜の袋だけの画分は、全体と同じ変化を起こさなかった」という同じ向きの結果が出ています。
膜小胞(細胞が出す、膜に包まれた微小な袋)だけを取り出した画分では、全体と同じ変化が起きなかった。これが両方に共通する結果です。1本だけなら偶然かもしれませんが、異なる系で同じ方向の結果が出ている点に意味があります。
一方で、2本は同じことを言っているわけではありません。研究1では全体がもっとも作用が大きく、可溶性画分単独もそれには及びませんでした。研究2では可溶性画分だけで全体とほぼ同等でした。可溶性因子(液に溶けた状態で働く成分)と膜小胞の寄与の比率は、系によって変わると読むのが妥当です。
直感的なポイント
スープのたとえに戻すと、研究1は「具も出汁も入ったスープが、いちばん大きく働いた」、研究2は「出汁だけでも、スープとほぼ同等だった」という結果です。2本で順位は違いますが、「具だけでは、スープの代わりにならなかった」という向きは共通しています。
共通しているのは「エクソソーム単独では全体と同じにならなかった」という点であって、「可溶性因子がすべてを担っている」ではありません。研究1では、可溶性画分単独も全体には及んでいません。
5. この結果をどう受け止めるか — 読むうえでの4つの限界
先に釘を刺しておくと、この2本は「セクレトームのほうが優れている」と断定するための材料ではありません。読み替えてよい範囲を、次の4点で確認してください。
-
いずれも試験管内(in vitro)の研究です
培養した細胞に直接投与した実験であり、ヒトに投与した場合の結果ではありません。ヒトでの優劣を示すデータは、この2本には含まれていません。
-
研究1は馬の細胞を使っています
そのままヒトに当てはめることはできません。「異なる種で共通の傾向が出た」という読み方までが妥当な範囲です。
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当社の製品を試験したものではありません
いずれも研究機関が自ら調製した画分を用いた実験です。製品ごとの製法・濃度の違いは、この結果に反映されていません。
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「エクソソームに作用がない」という結果ではありません
研究2ではエクソソーム画分が細胞に取り込まれていたことが確認されています。測定した指標では変化が小さかった、というのが正確な記述です。指標や対象を変えれば、別の結果になる可能性があります。
そのうえで、原料を選ぶ立場から言えることは1つです。膜小胞だけを取り出す工程は、可溶性因子を捨てる工程でもあります。何を残したいのかを決めてから、製品の形を選ぶ、という順序になります。
3つの言葉の関係と、当社がセクレトームと呼ぶ条件はセクレトームとはに、製法による残留成分の違いは幹細胞培養上清液とセクレトームの違いにまとめています。エクソソーム製品の「粒子数」の読み方はエクソソームの「〇〇兆個」は本当に信用できる?をご覧ください。
よくあるご質問
エクソソーム製剤とセクレトーム、どちらが優れているのですか。
現時点で、優劣を結論づけることはできません。ここで紹介した2本の研究は、いずれも試験管内で細胞に投与した実験であり、ヒトへの投与で優劣を比べたものではありません。研究が示しているのは、膜小胞だけを取り出した画分では、全体や可溶性画分と同じ変化が起きなかったという事実までです。
エクソソームには効果がないということですか。
そうは言えません。研究2では、エクソソーム画分は細胞に取り込まれていたことが確認されています。取り込まれたうえで、測定した免疫調節の指標には大きな変化が出なかった、という結果です。指標や対象を変えれば別の結果になる可能性があります。
馬の細胞を使った研究を、ヒトの話として読んでよいのですか。
そのまま当てはめることはできません。研究1は馬の間葉系幹細胞(骨や脂肪などに変化できる幹細胞)と馬の腱細胞を用いた試験管内の実験です。研究2はヒト羊膜由来の細胞とヒトの末梢血単核球を用いていますが、こちらも試験管内の実験です。異なる種・異なる細胞で共通の傾向が見られた点に意味がある、という読み方が妥当です。
出典
- [1] Soukup R, Gerner I, Mohr T, Gueltekin S, Grillari J, Jenner F. Mesenchymal Stem Cell Conditioned Medium Modulates Inflammation in Tenocytes: Complete Conditioned Medium Has Superior Therapeutic Efficacy than Its Extracellular Vesicle Fraction. Int J Mol Sci. 2023;24(13):10857. doi:10.3390/ijms241310857
- [2] Papait A, Ragni E, Cargnoni A, et al. Comparison of EV-free fraction, EVs, and total secretome of amniotic mesenchymal stromal cells for their immunomodulatory potential: a translational perspective. Front Immunol. 2022;13:960909. doi:10.3389/fimmu.2022.960909
英文の引用は論文題名からの抜粋で、和訳は当社によるものです。
本記事は公表された研究の内容を紹介したものです。当社の幹細胞セクレトームは研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。紹介した研究は当社製品を試験したものではありません。