30秒でわかる、この記事の要点
- 大きさはウイルスと同じ。光学顕微鏡では見えない小ささで、サイズだけでは何者か判断できません。
- マトリョーシカのように作られる。細胞膜が「2回」内側に入り込んで作られたものだけが、本来のエクソソームです。
- 目印(マーカー)の罠。「エクソソームの証」とされるマーカーを、実は半数以上の粒子が持っていません。
- 「集団」か「1粒」か。資料の数字が「集めた総量」なのか「1粒あたりの量」なのかを見極める必要があります。
1. どれくらい小さいのか — サイズの真実
エクソソームの直径はおよそ40〜160nm(平均約100nm)とされています。数字だけでは実感が湧きにくいので、身近なものと並べて比べてみましょう。
- 約10nm抗体(IgG)
- 約100nmエクソソーム
- 84〜170nmインフルエンザウイルス(エクソソームとほぼ完全に重なります)
- 約1,000nm大腸菌(1µm)
- 約7,800nm赤血球(エクソソームの約78倍)
直感的なポイント
ここで重要なのは、光学顕微鏡の限界(約200〜250nm)よりも小さいということです。普通の顕微鏡では1個ずつ見分けることができず、電子顕微鏡や特殊な計測装置が必須になります。またウイルスとサイズが丸被りしているため、「大きさだけ」でエクソソームだと断定することはできません。
「何個あるか」を数える話は、エクソソームの「〇〇兆個」は本当に信用できる?にまとめています。
2. どうやってできるのか — 3つの放出ルート
細胞から飛び出す「膜の袋」は、実はエクソソームだけではありません。これらは「大きさ」ではなく「どうやって細胞から出たか(できかた)」によって分類されます。
ルート1:エクソソーム — 袋の中の袋
細胞膜が「2回」内側へ入り込んでできる、マトリョーシカのような構造です。
- 細胞膜が内側に凹んで、袋(エンドソーム)ができる。
- その袋の膜がさらに内側に凹み、中に小さな袋がたくさんできる(多胞体:MVB)。
- 外側の膜が細胞膜と融合し、中の小さな袋だけが外へ放出される。
この特定のルートを通ったものだけが「エクソソーム(40〜180nm)」と呼ばれます。なお多胞体には行き先が2つあり、リソソームと融合すれば分解され、外には出ません。
ルート2:エクトソーム — 直接ちぎれる
細胞の表面(膜)が、そのまま外側に向かってプクッと膨らみ、直接ちぎれて放出されたものです(50〜1000nm)。
ルート3:アポトーシス小体 — 細胞の破裂
細胞が死ぬときに、バラバラにちぎれてできた大きな破片です(800〜5000nm)。
直感的なポイント
エクソソームとエクトソームはサイズが被っているため、抽出されたあとの粒子を見ただけでは「どちらのルートで出たものか」を区別することは困難です。
3. 中に何が入っているのか — 目印の罠
エクソソームは脂質の膜で包まれており、その表面には「CD9」「CD63」「CD81」などのタンパク質(テトラスパニン)がついています。内側には ALIX や TSG101 といったタンパク質、そして核酸(mRNA や miRNA)などが入っています。
ただし、表面の大部分はただの「脂質」です。直径100nmの球体に対して、マーカー分子は1粒子あたり平均で CD9 が17.0個、CD63 が12.8個、CD81 は1.6個。数個〜十数個がポツポツと点在しているに過ぎません。
「エクソソームマーカー」の、あまり知られていない現実
CD9・CD63・CD81 は、一般に「エクソソームの印(マーカー)」と呼ばれます。しかし、小胞を1個ずつ丁寧に数えた研究(100個に換算)を見ると、印象がかなり変わります。
- 54個いずれも検出されず(持っていない)
- 19個2種類の組み合わせを持つ
- 15個CD9 のみ
- 9個CD63 のみ
- 2個CD81 のみ
- 1個3種類すべて持っている
直感的なポイント
半分以上の粒子が、これらの目印を持っていません。国際指針(MISEV2023)でも、「すべての細胞外小胞を由来を問わず同定できる汎用マーカーは、現在知られていない」と明記されています。同指針は、CD9・CD63・CD81 を使う方法はエクソソームというサブタイプに特異的ではないともしています。
定量プロテオミクスでも、MHC・フロチリン・HSP70 は遠心速度で分けたどの画分にも同程度に存在し、CD63・CD81・CD9 で免疫単離した小型EV集団の分子組成は完全には一致しませんでした。
4. 「1,300遺伝子分」と「0.008分子」の矛盾
製品資料などで、一見すると矛盾する2つの数字を目にすることがあります。実はこれ、「森全体を見るか、木を一本見るか」の違いであり、どちらも正しい数字です。
集団の合算値(森)。たくさん集めて「スープ」のようにまとめて解析すると、約1,300遺伝子分の mRNA・miRNA が検出されます。「いろいろな核酸が入っている」という表現になります。
1粒子あたりの値(木)。1個ずつ調べると、miRNA は1小胞あたり平均0.00825分子しかありません。100個集めても平均0.8分子です。つまり「大半の小胞は1分子も持っていない」ことになります。
エクソソームの内容物を集めたデータベース ExoCarta には、タンパク質だけで11万件以上が登録されています。ただしそれは世界中の研究を合算した「図鑑」であり、1個のエクソソームにすべてが詰まっているわけではありません。
直感的なポイント
資料を読む際は、その数字が「集団の合算」なのか「1粒子あたり」なのかを必ず確認してください。桁が2つ以上変わります。
5. 国際指針による「呼び方」の厳格化
いま、「エクソソーム」という言葉の使い方そのものが、国際的に整理し直されています。
国際細胞外小胞学会の最新指針(MISEV2023)は、前述した「袋の中の袋」という由来を実証できない限り、「エクソソーム」という呼称を使うことを推奨していません。日常的な分離操作でこの由来を証明するのは、事実上不可能だからです。MISEV2018 は、それを示すには「放出の瞬間をライブイメージングで捉える」ことが要るとまで書いています。
代わりに推奨されているのが、大きさで区別する「小型EV(sEV:およそ200nm未満)」「大型EV(lEV)」という呼称です。「マイクロベシクル」にいたっては、歴史的に大型の細胞外小胞や全体を指して使われ混乱を招くため、無条件に推奨しないとされました。
日本国内でも、日本細胞外小胞学会が2023年12月の見解で「エクソソーム(EV)というワードが一人歩きし…」と、用語の乱用を明示的に問題視しています。
同じ見解のなかで、日本細胞外小胞学会は「そもそも、流通している細胞培養上清液は研究用の試薬であり、医薬品として流通しているものではないことを理解しておく必要があります」とも述べています。当社が幹細胞セクレトームを研究用試薬として供給しているのは、この位置づけによります。
なお MISEV2023 は「エクソソームという語を使うな」とは言っていません。推奨しない(discourage)であり、拘束力もありません。本記事も一般的な通り名として「エクソソーム」を使っていますが、正確な製品評価にはこの背景知識が欠かせません。
製品資料を正しく読むための「5つの着眼点」
ここまでの科学的事実を踏まえ、分析データを見る際は以下の5点にご注意ください。
-
サイズ表記は「測定法」とセットで見る
光で測るか、電子顕微鏡で見るかで結果が変わります。NTA や DLS は流体力学的直径を測るため、電子顕微鏡による実測より大きく出ます。
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「エクソソーム」と書かれていても、実際は「小型EV(sEV)」であることがほとんど
由来が実証されているとは限りません。用語を正確に使い分けている資料は、学術的背景を踏まえている目安になります。
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マーカーが陽性でも、すべての粒子が小胞である証明にはならない
逆に、陰性でも小胞でないとは限りません。半分以上の粒子がマーカーを持たない、というのが単一小胞計測の実態です。
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数字が「集団の合算」か「1粒子あたり」かを確かめる
同じ試料でも、見方を変えれば桁が2つ以上変わります。
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どの「分離法」で得た標品かを見る
方法を変えれば、抽出される粒子の集団も変わります。同じ細胞由来でも、見えている集団が違います。
粒子数の測り方と測定法ごとの限界はエクソソームの「〇〇兆個」は本当に信用できる?、エクソソームだけを取り出す工程で何が起きるかはエクソソームだけを取り出すと、何が失われるのかにまとめています。培養上清液そのものの定義は幹細胞培養上清液とはをご覧ください。
よくあるご質問
エクソソームとは何ですか。
細胞から出てくる、脂質二重膜に包まれた小さな袋です。直径はおよそ40〜160nm。細胞膜が内側へ入り込んでできた「多胞体」の内部の小胞が、細胞外へ放出されたものを指します。大きさではなく「由来する経路」によって他の小胞と区別されます。
サイズの表記が資料によって違うのはなぜですか。
主に3つの理由があります。第一に測定原理の違いで、光で測る NTA などは流体力学的直径を測るため実測より大きく出る傾向があります。第二に、右に裾を引く対数正規分布における代表値の取り方の違いです。第三に測定装置の検出限界で、小さすぎるものを見落とすため見かけの最頻径が上がってしまう現象があります。
CD9・CD63・CD81 があれば、エクソソームと判断してよいですか。
判断できません。MISEV2023 は、これらのマーカーがすべての細胞外小胞に存在するわけではないと述べています。実際、ヒト精漿由来の小胞を1個ずつ数えた研究では、膜の色素で染まった粒子のうち53.5%が3つのいずれも有意に検出されず、3種すべて陽性のものは1.1%にとどまりました。同指針は、由来を問わずすべての細胞外小胞を同定できる汎用マーカーは現在知られていない、とも明記しています。
エクトソームやマイクロベシクルとの違いは何ですか。
「どうやって細胞から出たか」の違いです。エクソソームは細胞内部の多胞体から放出されますが、エクトソームは細胞の表面がそのまま出芽してちぎれます。サイズは重なっているため、大きさだけでは区別できません。なお「マイクロベシクル」という呼称は、歴史的に大型の細胞外小胞や全体を指して使われ混乱を招くため、国際指針では無条件には推奨されていません。
光学顕微鏡で見えますか。
1個ずつ見分けることはできません。光学顕微鏡の分解能限界(約200〜250nm)よりもエクソソームのほうが小さいためです。観察には電子顕微鏡が、数の計測には専用の解析装置が必要になります。
「RNAを大量に運ぶ」と「1粒子あたり0.008分子」は矛盾しませんか。
矛盾しません。前者は「大量に集めた集団全体」の解析結果であり、後者は「1粒」に換算した値です。miRNA のコピー数は1小胞あたり平均0.00825分子と報告されており、100個集めても平均0.8分子にしかなりません。大多数の小胞は1分子も持っていないことになります。数字がどちらを指しているかを確認することが重要です。
本記事は細胞外小胞の細胞生物学に関する一般的な解説です。記載した数値は引用元の実験条件におけるものであり、あらゆる試料に当てはまるものではありません。当社の幹細胞セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)は研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。
出典・一次文献
- MISEV2023(国際細胞外小胞学会指針):Welsh JA, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles (MISEV2023): From basic to advanced approaches. J Extracell Vesicles. 2024;13(2):e12404.(用語の整理、汎用マーカーの不在、テトラスパニン法の非特異性)
- サイズと生成経路:Kalluri R, LeBleu VS. The biology, function, and biomedical applications of exosomes. Science. 2020;367(6478):eaau6977./Arya SB, Collie SP, Parent CA. The ins-and-outs of exosome biogenesis, secretion, and internalization. Trends Cell Biol. 2024;34(2):90-108.
- マーカーの画分間分布:Kowal J, et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. PNAS. 2016;113(8):E968-E977.
- 核酸の含有量:Chevillet JR, et al. Quantitative and stoichiometric analysis of the microRNA content of exosomes. PNAS. 2014;111(41):14888-14893.(1小胞あたり 0.00825分子)/Valadi H, et al. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol. 2007;9(6):654-659.(約1,300遺伝子分)
- 国内見解:一般社団法人日本細胞外小胞学会「エクソソームを用いた医療行為に関する見解」(令和5年12月25日)