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【完全解説】エクソソームとは何か
「大きさ・できかた・中身」の科学的真実

「細胞から出てくる、直径100ナノメートルほどの小さな袋」。エクソソームの説明としてよく使われる言葉ですが、これだけでは製品資料に並ぶ複雑なデータを正しく読み解くことはできません。この記事では、エクソソームが「どれくらい小さいのか」「どうやってできるのか」「中に何がどれだけ入っているのか」という3つの疑問について、国際指針(MISEV2023)や一次文献の正確な数値に基づいて解説します。

30秒でわかる、この記事の要点

  • 大きさはウイルスと同じ。光学顕微鏡では見えない小ささで、サイズだけでは何者か判断できません。
  • マトリョーシカのように作られる。細胞膜が「2回」内側に入り込んで作られたものだけが、本来のエクソソームです。
  • 目印(マーカー)の罠。「エクソソームの証」とされるマーカーを、実は半数以上の粒子が持っていません。
  • 「集団」か「1粒」か。資料の数字が「集めた総量」なのか「1粒あたりの量」なのかを見極める必要があります。

1. どれくらい小さいのか — サイズの真実

エクソソームの直径はおよそ40〜160nm(平均約100nm)とされています。数字だけでは実感が湧きにくいので、身近なものと並べて比べてみましょう。

  • 約10nm抗体(IgG)
  • 約100nmエクソソーム
  • 84〜170nmインフルエンザウイルス(エクソソームとほぼ完全に重なります)
  • 約1,000nm大腸菌(1µm)
  • 約7,800nm赤血球(エクソソームの約78倍)
エクソソームの大きさを他のものと比べる 対数目盛での比較です。アルブミンが約7ナノメートル、抗体が約10ナノメートル、エクソソームが40から160ナノメートルで平均約100ナノメートル、インフルエンザウイルスが84から170ナノメートル、光学顕微鏡の分解能の限界が約200から250ナノメートル、大腸菌が1から2マイクロメートル、赤血球が約7.8マイクロメートルです。エクソソームは光学顕微鏡の分解能より小さいため、1個ずつ見分けることができません。またインフルエンザウイルスとサイズ帯がほぼ完全に重なります。 大きさの比較(横軸は対数目盛。1目盛で10倍ちがう) 1nm 10nm 100nm 1µm 10µm アルブミン 抗体(IgG) エクソソーム 平均 約100nm インフルエンザ ウイルス ほぼ完全に重なる 光学顕微鏡の分解能 これより小さいと1個ずつ見分けられない 大腸菌 赤血球 エクソソームの約78倍 光学顕微鏡では1個ずつ見分けられない。だから「何個あるか」を数えるのに特別な装置が要る。 エクソソームの大きさを他のものと比べる アルブミンが約7ナノメートル、抗体が約10ナノメートル、エクソソームが40から160ナノメートルで平均約100ナノメートル、インフルエンザウイルスが84から170ナノメートル、光学顕微鏡の分解能の限界が約200から250ナノメートル、大腸菌が1から2マイクロメートル、赤血球が約7.8マイクロメートルです。エクソソームは光学顕微鏡の分解能より小さいため1個ずつ見分けることができず、インフルエンザウイルスとサイズ帯がほぼ完全に重なります。 大きさの比較 横軸は対数目盛。1目盛で10倍ちがう 1nm 10nm 100nm 1µm 10µm アルブミン 抗体(IgG) エクソソーム 平均 約100nm インフルエンザウイルス ほぼ完全に重なる 光学顕微鏡の分解能 これより小さいと 1個ずつ見分けられない 大腸菌 赤血球 エクソソームの約78倍 光学顕微鏡では1個ずつ見分けられない。 だから「何個あるか」を数えるのに装置が要る。
図1:横軸は対数目盛で、1目盛ごとに10倍変わります。

直感的なポイント

ここで重要なのは、光学顕微鏡の限界(約200〜250nm)よりも小さいということです。普通の顕微鏡では1個ずつ見分けることができず、電子顕微鏡や特殊な計測装置が必須になります。またウイルスとサイズが丸被りしているため、「大きさだけ」でエクソソームだと断定することはできません。

「何個あるか」を数える話は、エクソソームの「〇〇兆個」は本当に信用できる?にまとめています。

2. どうやってできるのか — 3つの放出ルート

細胞から飛び出す「膜の袋」は、実はエクソソームだけではありません。これらは「大きさ」ではなく「どうやって細胞から出たか(できかた)」によって分類されます。

ルート1:エクソソーム — 袋の中の袋

細胞膜が「2回」内側へ入り込んでできる、マトリョーシカのような構造です。

  1. 細胞膜が内側に凹んで、袋(エンドソーム)ができる。
  2. その袋の膜がさらに内側に凹み、中に小さな袋がたくさんできる(多胞体:MVB)。
  3. 外側の膜が細胞膜と融合し、中の小さな袋だけが外へ放出される
エクソソームができるまで 細胞膜が内側へ陥入して初期選別エンドソームができ、それが成熟して後期選別エンドソームになります。さらにエンドソームの膜が内側へ陥入することで、内部に多数の小さな小胞を含む多胞体ができます。この内部の小胞が管腔内小胞で、のちのエクソソームにあたります。多胞体には2つの行き先があり、細胞膜と融合すると管腔内小胞が細胞外へ放出されてエクソソームになり、リソソームと融合すると分解されます。 エクソソームは、細胞膜が2回内側へ入り込んでできる 細胞の外 細胞の中 ① 膜が内側へ入り込む ② 初期選別エンドソーム early-sorting endosome ③ 後期選別エンドソーム late-sorting endosome ④ 多胞体(MVB) multivesicular body 中の小胞=管腔内小胞(ILV) ⑤ 膜と融合して放出 エクソソーム リソソームと融合すれば 分解される(放出されない) 「エクソソーム」と呼べるのは、この経路(エンドソーム由来)で出たものだけ。 MVB 800〜2000nm に対し、ILV(のちのエクソソーム)はその1/10〜1/20。 エクソソームができるまで 細胞膜が内側へ陥入して初期選別エンドソームができ、成熟して後期選別エンドソームになります。さらにエンドソームの膜が内側へ陥入して、内部に多数の小胞を含む多胞体ができます。この内部の小胞が管腔内小胞で、のちのエクソソームにあたります。多胞体には行き先が2つあり、細胞膜と融合すると管腔内小胞が細胞外へ放出されてエクソソームになり、リソソームと融合すると分解されます。 細胞膜が2回、内側へ入り込んでできる 細胞の外 細胞の中 ① 膜が内側へ入り込む 細胞膜が内側へくぼむ ② 初期選別エンドソーム early-sorting endosome ③ 後期選別エンドソーム late-sorting endosome ④ 多胞体(MVB) multivesicular body 中の小胞=管腔内小胞(ILV) ⑤ 膜と融合して放出 これがエクソソーム (細胞の外へ出る) (もう一方の行き先) リソソームと融合 → 分解される 「エクソソーム」と呼べるのは、 この経路(エンドソーム由来)で出たものだけ。
図2:1回目の陥入でエンドソームができ、2回目にエンドソームの膜が内側へ入り込んで管腔内小胞(ILV)ができます。この「小胞の中に小胞がある」構造が多胞体です。

この特定のルートを通ったものだけが「エクソソーム(40〜180nm)」と呼ばれます。なお多胞体には行き先が2つあり、リソソームと融合すれば分解され、外には出ません。

ルート2:エクトソーム — 直接ちぎれる

細胞の表面(膜)が、そのまま外側に向かってプクッと膨らみ、直接ちぎれて放出されたものです(50〜1000nm)。

ルート3:アポトーシス小体 — 細胞の破裂

細胞が死ぬときに、バラバラにちぎれてできた大きな破片です(800〜5000nm)。

細胞外小胞の3つの出かた エクソソームは細胞の中で作られ、多胞体が細胞膜と融合して外へ出るもので40から180ナノメートルです。エクトソームは細胞膜がそのまま外へ出芽してちぎれるもので50から1000ナノメートルです。アポトーシス小体は細胞が死ぬときにちぎれてできるもので800から5000ナノメートルです。3つはサイズではなく、どのようにして細胞から出たかで区別されます。サイズ範囲は重なるため、大きさだけでは見分けられません。 3つを分けるのは大きさではなく「どうやって細胞から出たか」 細胞の外 エクソソーム 細胞の中で作られ、多胞体が 膜と融合して外へ出る 40〜180 nm エクトソーム 細胞膜がそのまま 外へ出芽してちぎれる 50〜1000 nm アポトーシス小体 細胞が死ぬときに ちぎれてできる 800〜5000 nm サイズの範囲は重なる。エクトソームにはエクソソームと同じ大きさのものがある。 だから、分離したあとの粒子を大きさだけで「エクソソーム」と決めることはできない。 細胞外小胞の3つの出かた エクソソームは細胞の中で作られ、多胞体が細胞膜と融合して外へ出るもので40から180ナノメートルです。エクトソームは細胞膜がそのまま外へ出芽してちぎれるもので50から1000ナノメートルです。アポトーシス小体は細胞が死ぬときにちぎれてできるもので800から5000ナノメートルです。3つはサイズではなくどのようにして細胞から出たかで区別され、サイズ範囲は重なるため大きさだけでは見分けられません。 分けるのは大きさではなく 「どうやって細胞から出たか」 エクソソーム 細胞の中で作られ、 多胞体が膜と融合して 外へ出る 40〜180 nm エクトソーム 細胞膜がそのまま 外へ出芽して ちぎれる 50〜1000 nm アポトーシス小体 細胞が死ぬときに ちぎれてできる 800〜5000 nm サイズの範囲は重なる。エクトソームには エクソソームと同じ大きさのものがある。 だから、分離したあとの粒子を大きさだけで 「エクソソーム」と決めることはできない。
図3:3つの出かた。分類の基準は大きさではなく、細胞からどう出たかです。

直感的なポイント

エクソソームとエクトソームはサイズが被っているため、抽出されたあとの粒子を見ただけでは「どちらのルートで出たものか」を区別することは困難です。

3. 中に何が入っているのか — 目印の罠

エクソソームは脂質の膜で包まれており、その表面には「CD9」「CD63」「CD81」などのタンパク質(テトラスパニン)がついています。内側には ALIX や TSG101 といったタンパク質、そして核酸(mRNA や miRNA)などが入っています。

エクソソームの断面 エクソソームは脂質二重膜に囲まれた直径およそ100ナノメートルの小胞です。膜の表面にはテトラスパニンと呼ばれるCD9、CD63、CD81のほか、インテグリンやMHC分子があります。ただし1粒子あたりの平均コピー数はCD9が17個、CD63が12.8個、CD81が1.6個で、表面の大半は脂質のままです。ALIXやTSG101は膜に結合する性質を持つため、内腔の中央に浮かんでいるのではなく膜の内側に接しています。内腔にはメッセンジャーRNAやマイクロRNA、タンパク質が入っています。 断面(直径およそ100nm)。表面の大半は脂質のまま。 脂質二重膜 CD9 CD63 CD81 インテグリン MHC ALIX TSG101 mRNA・miRNA タンパク質 1粒子あたりの平均コピー数 CD917.0 個 CD6312.8 個 CD811.6 個 数個〜十数個が点在するだけで、 膜を覆うほど多くはない。 ALIX・TSG101 は膜に張り付く 性質を持つ分子なので、内腔の 真ん中には浮かんでいない。 「すべてのEVを由来を問わず同定できる汎用マーカーは、現在知られていない」(MISEV2023)。 コピー数はヒト精漿由来・単一小胞計測の平均値。分布は広く、多くの粒子はゼロ。 エクソソームの断面 エクソソームは脂質二重膜に囲まれた直径およそ100ナノメートルの小胞です。膜の表面にはテトラスパニンと呼ばれるCD9、CD63、CD81のほか、インテグリンやMHC分子があります。ただし1粒子あたりの平均コピー数はCD9が17個、CD63が12.8個、CD81が1.6個で、表面の大半は脂質のままです。ALIXやTSG101は膜に結合する性質を持つため、内腔の中央ではなく膜の内側に接しています。内腔にはメッセンジャーRNAやマイクロRNA、タンパク質が入っています。 断面(直径およそ100nm) 表面の大半は脂質のまま CD9 CD63 CD81 インテグリン MHC 脂質二重膜 TSG101 ALIX mRNA・miRNA タンパク質 1粒子あたりの平均コピー数 CD9 17.0 個 CD63 12.8 個 CD81 1.6 個 数個〜十数個が点在するだけで、膜を覆うほど 多くはない。ALIX・TSG101 は膜に張り付く 性質を持つので、内腔の真ん中には浮かばない。 「すべてのEVを由来を問わず同定できる汎用 マーカーは、現在知られていない」(MISEV2023)。 コピー数はヒト精漿由来・単一小胞計測の平均値。 分布は広く、多くの粒子はゼロ。
図4:ALIX や TSG101 は膜に結合する性質を持つ分子なので、内腔の中央に浮かんでいるのではなく、膜の内側に接しています。

ただし、表面の大部分はただの「脂質」です。直径100nmの球体に対して、マーカー分子は1粒子あたり平均で CD9 が17.0個、CD63 が12.8個、CD81 は1.6個。数個〜十数個がポツポツと点在しているに過ぎません。

「エクソソームマーカー」の、あまり知られていない現実

CD9・CD63・CD81 は、一般に「エクソソームの印(マーカー)」と呼ばれます。しかし、小胞を1個ずつ丁寧に数えた研究(100個に換算)を見ると、印象がかなり変わります。

エクソソーム100個のうち、CD9・CD63・CD81を持つのは何個か ヒト精漿由来の小胞を1個ずつ数えた研究では、膜の色素で染まった粒子のうち、CD9・CD63・CD81のいずれも有意に検出されなかったものが53.5パーセントで最も多く、CD9のみが15.1パーセント、CD63のみが9.2パーセント、CD81のみが1.5パーセント、3種すべてが陽性のものはわずか1.1パーセントでした。100個の粒子に置き換えると、半分以上がどのマーカーも持たないことになります。 小胞を1個ずつ数えたら(100個ぶんに換算) ●1つ=1個の粒子 いずれも検出されず 54個 2種の組み合わせ 19個 CD9 のみ 15個 CD63 のみ 9個 CD81 のみ 2個 3種すべて陽性 1個 「エクソソームマーカー」と呼ばれる3つを、半分以上の粒子が持っていない。 ヒト精漿由来・単一小胞計測。分母は膜色素で染まった粒子。「検出されず」は抗体の標識効率と検出閾値に依存する運用上の陰性。 エクソソーム100個のうちCD9・CD63・CD81を持つのは何個か ヒト精漿由来の小胞を1個ずつ数えた研究では、膜の色素で染まった粒子のうち、CD9・CD63・CD81のいずれも有意に検出されなかったものが53.5パーセントで最も多く、CD9のみが15.1パーセント、CD63のみが9.2パーセント、CD81のみが1.5パーセント、3種すべてが陽性のものはわずか1.1パーセントでした。100個の粒子に置き換えると、半分以上がどのマーカーも持たないことになります。 小胞を1個ずつ数えたら(100個ぶんに換算) ●1つ=1個の粒子 いずれも検出されず 54個 2種の組み合わせ 19個 CD9 のみ 15個 CD63 のみ 9個 CD81 のみ 2個 3種すべて陽性 1個 「エクソソームマーカー」と呼ばれる3つを、 半分以上の粒子が持っていない。 ヒト精漿由来・単一小胞計測。分母は膜色素で染まった 粒子。「検出されず」は抗体の標識効率と検出閾値に 依存する運用上の陰性。
図5:ヒト精漿由来の小胞を単一小胞計測した結果を100個ぶんに換算したもの。「検出されず」は抗体の標識効率と検出閾値に依存する運用上の陰性です。
  • 54個いずれも検出されず(持っていない)
  • 19個2種類の組み合わせを持つ
  • 15個CD9 のみ
  • 9個CD63 のみ
  • 2個CD81 のみ
  • 1個3種類すべて持っている

直感的なポイント

半分以上の粒子が、これらの目印を持っていません。国際指針(MISEV2023)でも、「すべての細胞外小胞を由来を問わず同定できる汎用マーカーは、現在知られていない」と明記されています。同指針は、CD9・CD63・CD81 を使う方法はエクソソームというサブタイプに特異的ではないともしています。

定量プロテオミクスでも、MHC・フロチリン・HSP70 は遠心速度で分けたどの画分にも同程度に存在し、CD63・CD81・CD9 で免疫単離した小型EV集団の分子組成は完全には一致しませんでした。

4. 「1,300遺伝子分」と「0.008分子」の矛盾

製品資料などで、一見すると矛盾する2つの数字を目にすることがあります。実はこれ、「森全体を見るか、木を一本見るか」の違いであり、どちらも正しい数字です。

集団でまとめて見るか、1粒子ずつ見るか エクソソームをたくさん集めてまとめて解析すると、約1300遺伝子分のメッセンジャーRNAとマイクロRNAが検出されます。一方、1粒子あたりのマイクロRNAのコピー数を測ると平均0.00825分子で、100個集めても平均0.8分子にしかなりません。つまり大多数の小胞はマイクロRNAを1分子も持っていないことになります。どちらの数字も正しく、集団としての話と1粒子としての話が違うだけです。 同じものを、2つの見方で測ると たくさん集めて、まとめて解析 約1,300 遺伝子分の mRNA・miRNA が検出される (マスト細胞由来・集団解析) 「いろいろな核酸が入っている」 1個ずつ数える(100個ぶん) miRNA は 100個で平均 0.8分子 1小胞あたり 0.00825分子(5種の由来を横断) 「大半の小胞は1分子も持たない」 どちらの数字も正しい。 集団としての話と、1粒子 としての話が違うだけ。 資料の数字が「集団の合算」か 「1粒子あたり」かを必ず見る。 集団でまとめて見るか、1粒子ずつ見るか エクソソームをたくさん集めてまとめて解析すると、約1300遺伝子分のメッセンジャーRNAとマイクロRNAが検出されます。一方、1粒子あたりのマイクロRNAのコピー数を測ると平均0.00825分子で、100個集めても平均0.8分子にしかなりません。つまり大多数の小胞はマイクロRNAを1分子も持っていないことになります。どちらの数字も正しく、集団としての話と1粒子としての話が違うだけです。 同じものを、2つの見方で測ると たくさん集めて、まとめて解析 約1,300 遺伝子分の mRNA・miRNA が検出される (マスト細胞由来・集団解析) →「いろいろな核酸が入っている」 1個ずつ数える(100個ぶん) miRNA は 100個で平均 0.8分子 1小胞あたり 0.00825分子(5種の由来を横断) →「大半の小胞は1分子も持たない」 どちらの数字も正しい。集団としての話と、 1粒子としての話が違うだけ。 資料の数字が「集団の合算」か「1粒子あたり」か を必ず見る。
図6:集団としての測定値と、1粒子あたりに換算した値。同じものを別の見方で測っています。

集団の合算値(森)。たくさん集めて「スープ」のようにまとめて解析すると、約1,300遺伝子分の mRNA・miRNA が検出されます。「いろいろな核酸が入っている」という表現になります。

1粒子あたりの値(木)。1個ずつ調べると、miRNA は1小胞あたり平均0.00825分子しかありません。100個集めても平均0.8分子です。つまり「大半の小胞は1分子も持っていない」ことになります。

エクソソームの内容物を集めたデータベース ExoCarta には、タンパク質だけで11万件以上が登録されています。ただしそれは世界中の研究を合算した「図鑑」であり、1個のエクソソームにすべてが詰まっているわけではありません。

直感的なポイント

資料を読む際は、その数字が「集団の合算」なのか「1粒子あたり」なのかを必ず確認してください。桁が2つ以上変わります。

5. 国際指針による「呼び方」の厳格化

いま、「エクソソーム」という言葉の使い方そのものが、国際的に整理し直されています。

MISEV2023 が整理した用語の階層 国際細胞外小胞学会の指針MISEV2023では、細胞外粒子が細胞外小胞と非小胞性細胞外粒子に分かれます。細胞外小胞は脂質二重膜で囲まれ自己複製しない粒子で、大きさで小型細胞外小胞と大型細胞外小胞に分けます。境界はおよそ200ナノメートルですが厳密な合意はありません。小型細胞外小胞には、多胞体由来のエクソソームと、細胞膜由来の小型エクトソームの両方が含まれます。したがって小型細胞外小胞とエクソソームは同義ではありません。エクソソームという語は細胞内の由来を実証できない限り推奨されず、マイクロベシクルという語は無条件に推奨されません。 MISEV2023(国際細胞外小胞学会の指針)の整理 細胞外粒子(EP) 細胞の外にある粒子の総称 細胞外小胞(EV) 脂質二重膜で囲まれ、自己複製しない(=核を持たない) 小型EV(sEV) およそ 200nm 未満 推奨。ただし上限・下限に厳密な合意はない エクソソーム 由来を示せない限り非推奨 小型エクトソーム 細胞膜から直接出たもの 非小胞性の粒子 (NVEP) リポタンパク質など 大型EV(lEV) およそ 200nm 超 「マイクロベシクル」は 無条件に非推奨 小型EV と エクソソームは同義ではない。小型EVには小型エクトソームも入る。 MISEV2023 は「使うな」とは言っていない。推奨しない(discourage)であり、拘束力はない。 Welsh JA et al. J Extracell Vesicles. 2024;13(2):e12404 MISEV2023 が整理した用語の階層 国際細胞外小胞学会の指針MISEV2023では、細胞外粒子が細胞外小胞と非小胞性細胞外粒子に分かれます。細胞外小胞は脂質二重膜で囲まれ自己複製しない粒子で、大きさで小型細胞外小胞と大型細胞外小胞に分けます。境界はおよそ200ナノメートルですが厳密な合意はありません。小型細胞外小胞には多胞体由来のエクソソームと細胞膜由来の小型エクトソームの両方が含まれるため、小型細胞外小胞とエクソソームは同義ではありません。エクソソームという語は細胞内の由来を実証できない限り推奨されず、マイクロベシクルという語は無条件に推奨されません。 MISEV2023(国際細胞外小胞学会の指針)の整理 細胞外粒子(EP) 細胞の外にある粒子の総称 細胞外小胞(EV) 脂質二重膜で囲まれ、自己複製しない 小型EV(sEV) およそ 200nm 未満 推奨。上限・下限に厳密な合意はない エクソソーム 由来を示せない 限り非推奨 小型エクトソーム 細胞膜から 直接出たもの 大型EV(lEV) およそ 200nm 超 「マイクロベシクル」は 無条件に非推奨 非小胞性の粒子(NVEP) リポタンパク質など。膜に囲まれていない 小型EV と エクソソームは同義ではない。 小型EVには小型エクトソームも入る。 MISEV2023 は「使うな」とは言っていない。 推奨しない(discourage)であり、拘束力はない。 Welsh JA et al. J Extracell Vesicles. 2024;13(2):e12404
図7:MISEV2023(国際細胞外小胞学会の指針、2024年公表)による整理。小型EVとエクソソームは同義ではありません。

国際細胞外小胞学会の最新指針(MISEV2023)は、前述した「袋の中の袋」という由来を実証できない限り、「エクソソーム」という呼称を使うことを推奨していません。日常的な分離操作でこの由来を証明するのは、事実上不可能だからです。MISEV2018 は、それを示すには「放出の瞬間をライブイメージングで捉える」ことが要るとまで書いています。

代わりに推奨されているのが、大きさで区別する「小型EV(sEV:およそ200nm未満)」「大型EV(lEV)」という呼称です。「マイクロベシクル」にいたっては、歴史的に大型の細胞外小胞や全体を指して使われ混乱を招くため、無条件に推奨しないとされました。

日本国内でも、日本細胞外小胞学会が2023年12月の見解で「エクソソーム(EV)というワードが一人歩きし…」と、用語の乱用を明示的に問題視しています。

同じ見解のなかで、日本細胞外小胞学会は「そもそも、流通している細胞培養上清液は研究用の試薬であり、医薬品として流通しているものではないことを理解しておく必要があります」とも述べています。当社が幹細胞セクレトームを研究用試薬として供給しているのは、この位置づけによります。

なお MISEV2023 は「エクソソームという語を使うな」とは言っていません。推奨しない(discourage)であり、拘束力もありません。本記事も一般的な通り名として「エクソソーム」を使っていますが、正確な製品評価にはこの背景知識が欠かせません。

製品資料を正しく読むための「5つの着眼点」

ここまでの科学的事実を踏まえ、分析データを見る際は以下の5点にご注意ください。

  1. サイズ表記は「測定法」とセットで見る

    光で測るか、電子顕微鏡で見るかで結果が変わります。NTA や DLS は流体力学的直径を測るため、電子顕微鏡による実測より大きく出ます。

  2. 「エクソソーム」と書かれていても、実際は「小型EV(sEV)」であることがほとんど

    由来が実証されているとは限りません。用語を正確に使い分けている資料は、学術的背景を踏まえている目安になります。

  3. マーカーが陽性でも、すべての粒子が小胞である証明にはならない

    逆に、陰性でも小胞でないとは限りません。半分以上の粒子がマーカーを持たない、というのが単一小胞計測の実態です。

  4. 数字が「集団の合算」か「1粒子あたり」かを確かめる

    同じ試料でも、見方を変えれば桁が2つ以上変わります。

  5. どの「分離法」で得た標品かを見る

    方法を変えれば、抽出される粒子の集団も変わります。同じ細胞由来でも、見えている集団が違います。

粒子数の測り方と測定法ごとの限界はエクソソームの「〇〇兆個」は本当に信用できる?、エクソソームだけを取り出す工程で何が起きるかはエクソソームだけを取り出すと、何が失われるのかにまとめています。培養上清液そのものの定義は幹細胞培養上清液とはをご覧ください。

よくあるご質問

エクソソームとは何ですか。

細胞から出てくる、脂質二重膜に包まれた小さな袋です。直径はおよそ40〜160nm。細胞膜が内側へ入り込んでできた「多胞体」の内部の小胞が、細胞外へ放出されたものを指します。大きさではなく「由来する経路」によって他の小胞と区別されます。

サイズの表記が資料によって違うのはなぜですか。

主に3つの理由があります。第一に測定原理の違いで、光で測る NTA などは流体力学的直径を測るため実測より大きく出る傾向があります。第二に、右に裾を引く対数正規分布における代表値の取り方の違いです。第三に測定装置の検出限界で、小さすぎるものを見落とすため見かけの最頻径が上がってしまう現象があります。

CD9・CD63・CD81 があれば、エクソソームと判断してよいですか。

判断できません。MISEV2023 は、これらのマーカーがすべての細胞外小胞に存在するわけではないと述べています。実際、ヒト精漿由来の小胞を1個ずつ数えた研究では、膜の色素で染まった粒子のうち53.5%が3つのいずれも有意に検出されず、3種すべて陽性のものは1.1%にとどまりました。同指針は、由来を問わずすべての細胞外小胞を同定できる汎用マーカーは現在知られていない、とも明記しています。

エクトソームやマイクロベシクルとの違いは何ですか。

「どうやって細胞から出たか」の違いです。エクソソームは細胞内部の多胞体から放出されますが、エクトソームは細胞の表面がそのまま出芽してちぎれます。サイズは重なっているため、大きさだけでは区別できません。なお「マイクロベシクル」という呼称は、歴史的に大型の細胞外小胞や全体を指して使われ混乱を招くため、国際指針では無条件には推奨されていません。

光学顕微鏡で見えますか。

1個ずつ見分けることはできません。光学顕微鏡の分解能限界(約200〜250nm)よりもエクソソームのほうが小さいためです。観察には電子顕微鏡が、数の計測には専用の解析装置が必要になります。

「RNAを大量に運ぶ」と「1粒子あたり0.008分子」は矛盾しませんか。

矛盾しません。前者は「大量に集めた集団全体」の解析結果であり、後者は「1粒」に換算した値です。miRNA のコピー数は1小胞あたり平均0.00825分子と報告されており、100個集めても平均0.8分子にしかなりません。大多数の小胞は1分子も持っていないことになります。数字がどちらを指しているかを確認することが重要です。

本記事は細胞外小胞の細胞生物学に関する一般的な解説です。記載した数値は引用元の実験条件におけるものであり、あらゆる試料に当てはまるものではありません。当社の幹細胞セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)は研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。

出典・一次文献

  • MISEV2023(国際細胞外小胞学会指針):Welsh JA, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles (MISEV2023): From basic to advanced approaches. J Extracell Vesicles. 2024;13(2):e12404.(用語の整理、汎用マーカーの不在、テトラスパニン法の非特異性)
  • サイズと生成経路:Kalluri R, LeBleu VS. The biology, function, and biomedical applications of exosomes. Science. 2020;367(6478):eaau6977./Arya SB, Collie SP, Parent CA. The ins-and-outs of exosome biogenesis, secretion, and internalization. Trends Cell Biol. 2024;34(2):90-108.
  • マーカーの画分間分布:Kowal J, et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. PNAS. 2016;113(8):E968-E977.
  • 核酸の含有量:Chevillet JR, et al. Quantitative and stoichiometric analysis of the microRNA content of exosomes. PNAS. 2014;111(41):14888-14893.(1小胞あたり 0.00825分子)/Valadi H, et al. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol. 2007;9(6):654-659.(約1,300遺伝子分)
  • 国内見解:一般社団法人日本細胞外小胞学会「エクソソームを用いた医療行為に関する見解」(令和5年12月25日)

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