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【完全解説】幹細胞培養上清液とは何か
エクソソームとの違いと規格の読み方

「幹細胞培養上清液」と「エクソソーム」は、しばしば同じもののように語られますが、別の概念です。また、製品資料に並ぶ「由来」「濃度」「試験結果」のどれを見れば比較になるのかは、資料の側には書かれていません。この分野には国内のガイダンスがあり、そこに「何を示すべきか」が明記されています。この記事では、培養上清液の定義・制度上の位置づけ・規格の読み方・由来の考え方を、厚生労働省の事務連絡と学会ガイダンス、一次文献に基づいて整理します。

30秒でわかる、この記事の要点

  • 培養上清液は「エクソソームの液」ではない。細胞を取り除いたあとに残る液の全体で、エクソソームはその中身の一部にすぎません。
  • 薬事承認された医薬品は、諸外国を含め存在しない。供給元が示せるのは有効性ではなく、品質の測定結果です。
  • 由来(脂肪・乳歯髄・臍帯)だけでは品質は決まらない。品質を左右する要因は9つ整理されており、由来はその1つにすぎません。

1. 培養上清液とは何か — 「エクソソームの液」ではない

結論から述べると、幹細胞培養上清液とは幹細胞を培養したあと、細胞そのものを取り除いて残る液の全体です。英語では conditioned medium(CM)、間葉系幹細胞(骨や脂肪などに変化できる幹細胞)由来のものは MSC-CM と表記されます。

料理にたとえるなら、昆布を引き上げたあとの「だし汁」に近い構造です。昆布(細胞)そのものは液に残っていませんが、そこから出た成分が液全体に溶け込んでいます。

中身は大きく2つに分かれます。

  • 可溶性因子 — タンパク質・核酸・脂質など、液に溶けた状態で働く成分。
  • 細胞外小胞 — 細胞が出す、膜に包まれた微小な袋(エクソソームを含む総称)。成分を膜で包んだ、小さなカプセルにあたります。

直感的なポイント

「培養上清液」と「エクソソーム」は同義ではありません。上清液は小胞を含みうる「液の全体」であって、小胞そのものではありません。この区別が、あらゆる製品資料を読むときの出発点になります。

培養上清液・セクレトーム・エクソソームの包含関係は、セクレトームとはの図で整理しています。

3つの由来と2つの剤形 由来は脂肪・乳歯髄・臍帯の3つ、剤形はフリーズドライと液体凍結の2つです。どの組み合わせでも品質基準と試験項目は同一で、剤形は保管設備に応じて選びます。 由来となる組織 剤形 脂肪 成人由来。採取量を確保しやすい 乳歯髄 抜けた乳歯から。提供者の年齢が低い 臍帯 出産時に採取。新生児由来 フリーズドライ 暗所常温(40℃まで)で保管できる 冷凍庫が要らない 使う前に純水か生理食塩水で溶かす 液体凍結 冷凍保存(−20℃以下)が要る 凍結保護剤を使わない 室温で5分ほどで解ける 由来3つ × 剤形2つ。どの組み合わせでも品質基準と試験項目は同一。 剤形は保管設備で選ぶ。由来だけで品質は決まらない。 3つの由来と2つの剤形 由来は脂肪・乳歯髄・臍帯の3つ、剤形はフリーズドライと液体凍結の2つです。どの組み合わせでも品質基準と試験項目は同一で、剤形は保管設備に応じて選びます。 由来となる組織 脂肪 成人由来。採取量を確保しやすい 乳歯髄 抜けた乳歯から。提供者の年齢が低い 臍帯 出産時に採取。新生児由来 剤形 フリーズドライ 暗所常温(40℃まで)で保管できる 冷凍庫が要らない 使う前に純水か生理食塩水で溶かす 液体凍結 冷凍保存(−20℃以下)が要る 凍結保護剤を使わない 室温で5分ほどで解ける どの組み合わせでも品質基準と 試験項目は同一。 剤形は保管設備で選ぶ。
図1:由来3つ×剤形2つの組み合わせ。どの組み合わせでも品質基準と試験項目は同一で、剤形は保管設備に応じて選びます。

2. 日本ではどう位置づけられているか — 承認された医薬品は無い

要点は2つです。薬事承認を受けた医薬品は存在せず、多くの利用場面は再生医療等安全性確保法の審査の外にあります。ここを誤解したまま資料を読むと、規格の意味も取り違えます。

薬事承認された医薬品は存在しない

厚生労働省は2024年7月31日の事務連絡で、次のように明記しています[1]

現時点で、使用されるエクソソーム等で諸外国を含め有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品はありません。

厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡(令和6年7月31日)より

「日本には無い」ではなく、「諸外国を含め」無いという記述です。したがって、有効性をうたう資料があれば、その時点で内容を疑う理由になります。供給元が示せるのは、有効性ではなく品質の測定結果です。

再生医療等安全性確保法の対象外にあたる

医師・歯科医師の指示のもとで調製し、自院の患者に用いる細胞外小胞・培養上清の医療行為は、現行の再生医療等安全性確保法の対象外です[2]。認定再生医療等委員会の審査を受けません。

これは規制が緩いという話ではなく、審査してくれる第三者がいないという話です。たとえるなら、検品係のいない納品のようなもので、開けて確かめる役は受け取る側に回ってきます。日本再生医療学会のガイダンスも、提供する医師・歯科医師自身が品質とリスクを把握する責任を負うと明記しています。

直感的なポイント

承認された医薬品は無く、第三者の審査も入らない。つまり品質を確かめる責任は、資料を読む側にあります。原料を選ぶ段階の確認が、そのまま最後の砦になります。

なお2024年6月公布の改正法の附則には、細胞の分泌物等を用いる医療技術について施行後2年をめどに検討する旨が盛り込まれています。制度は現在進行形で動いています。

3. 規格をどう読むか — 国内ガイダンスという「ものさし」

規格表は、数字の大小を探すのではなく、「何を測ったか」をガイダンスに照らして読みます。日本再生医療学会は2024年4月、日本細胞外小胞学会の協力のもとで「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」を公表しました[2]。ここに、調製物の規格として何を示すべきかが書かれています。

ガイダンスが求めているのは2点の証明

結論はシンプルで、「粒子の存在」と「マーカーの存在」の両方です。規格として一般に設定される項目として、次の2つが挙げられています。

  1. 細胞外小胞としての形状・サイズを持つ粒子が存在すること
  2. 細胞外小胞のマーカー分子が存在すること

マーカー分子としては、テトラスパニン(CD9・CD63・CD81など)や後期エンドソーム関連因子(Tsg101・Alixなど)が挙げられています。国際的なポジションペーパーは、こうしたタンパク質を少なくとも3種類、半定量的に解析すべきとしています。

つまり「粒子が見えました」だけでも、「マーカーがありました」だけでも足りません。両方が要ります。

粒子数とタンパク量は、突き合わせて読む

ガイダンスは、投与にあたって粒子数とタンパク量が頻用されるとしたうえで、「これらに相関関係があることが望ましい」と記しています。

どちらか一方の数字だけを大きく見せることは可能です。両者が食い違っていれば、粒子以外のものを数えているか、小胞以外のタンパク質が多いかのいずれかを疑う手がかりになります。

直感的なポイント

規格表でまず見るのは、粒子数とタンパク量が揃って示され、両者のつじつまが合っているかです。片方の数字だけが大きく書かれた資料は、それ以上の情報を持っていません。

タンパク濃度は「有効成分の量」ではない

総タンパク質の値は、いわば「鍋ごと量った重さ」です。培地に由来する成分が含まれるため、細胞が分泌した量そのものではありません。加えて、濃縮した検体では夾雑成分の影響で測定値が過大に出ることが報告されています。

「タンパク濃度が高い=有効成分が多い」という読み方は成り立ちません。

エンドトキシンは、投与量とセットでなければ判断できない

エンドトキシン(細菌に由来する発熱性物質)の許容値は、絶対値では決まりません。薬の用量計算と同じ発想で、投与量から逆算します。非経口製剤では体重1kg・1時間あたり 5.0 EU が発熱閾値とされ、そこから1時間に投与しうる最大量で割って限度値を出します。

したがって「0.1 EU/mL 以下」という表示だけでは、安全性の判断材料になりません。どれだけの量を、どう使う前提なのかとセットで初めて意味を持ちます。

無菌試験・マイコプラズマ否定試験・エンドトキシン試験がそれぞれ何を検出し、何を検出しないのかは培養上清液の安全性試験で解説しています。

原材料への指摘 — 血清を使っていないか

ガイダンスは、動物由来成分を含まない Xeno-free 培地を使うべきとしています。ウシ胎児血清を使用した場合、ウシ血清由来の細胞外小胞が混入し、予期しない生物活性を発現する恐れがあると指摘されています。

懸念される物質として、アルブミン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、アポB、マクログロブリン、ヘモグロビン、血液凝固因子などが具体的に列挙されています。

4. 由来(脂肪・乳歯髄・臍帯)の違いをどう考えるか

先に結論を述べると、細胞生物学的な差は報告されていますが、ヒトでの効果を比べた試験は存在しません。よく質問をいただく点なので、報告されている事実をそのまま一覧にします。

由来について報告されていること
観点報告されている内容
分泌因子の組成臍帯由来と歯髄由来の上清を同一条件で比べた研究では、HGF は臍帯由来で、VEGF-A は歯髄由来で高いという差が報告されている[3]
遺伝子発現の傾向歯髄由来では神経栄養因子群、脂肪由来では血管新生関連因子群の発現が相対的に高いという報告がある。ただしこれは遺伝子発現レベルの差であり、臨床での効果の差ではない[4]
ドナー間のばらつき臍帯組織は71ドナーの解析で全例から細胞が得られ、増殖速度も表面抗原基準も一定だった。新生児由来のため、成人組織で問題になるドナー年齢の影響を受けない[5]
ドナー年齢加齢が細胞老化を進めるとする系統的レビューがある一方、無血清培地では30〜60歳で増殖能・骨軟骨分化能に差がなかったという報告もある。培養条件が交絡するため単純化できない

由来ごとに用途を書き分けることは、本記事では行いません。根拠は主に試験管内の遺伝子発現やサイトカイン定量であり、ヒトでの効果を比べた試験は存在しないためです。承認を受けていない製品について効能・効果を示唆する記述は、薬機法第68条で何人にも禁じられています。

5. 品質を左右する要因は9つある — 由来はその1つ

総説では、セクレトームの品質にばらつきを生む要因が9つ整理されています[6]由来は、この9つのうちの1つにすぎません。

  1. 由来組織
  2. ドナーの特性(年齢・性別・代謝状態・疾患)
  3. 継代数(何回植え継いだか)。培養日数が延びると細胞は大きく平たくなり、これは老化のサインのひとつです(直径22.3μmと14.9μmの実測データ
  4. 培地の組成と血清の使用
  5. 細胞の密度と、分泌成分を集める時間
  6. 培養の環境(3次元培養・低酸素・力学刺激)
  7. 精製の方法
  8. 製造の規模と設備
  9. 保管と輸送の条件

コーヒーにたとえるなら、由来は「豆の産地」にあたります。同じ産地の豆でも焙煎と淹れ方で別の一杯になるように、同じ由来でも、培地と工程が違えば別物になります。由来を比べる前に、製法と規格を見るほうが実質的です。

製法による残留成分の違いは幹細胞培養上清液とセクレトームの違いに、供給元への確認事項は供給元に確認すべき6項目にまとめています。

よくあるご質問

培養上清液とエクソソームは同じものですか。

違います。培養上清液は、細胞を培養したあと細胞を除いて残る液の全体です。中身は液に溶けた可溶性因子と、細胞外小胞(エクソソームを含む膜の袋)の2つに大別されます。エクソソームは上清液に含まれる成分のひとつであって、上清液そのものではありません。

培養上清液は再生医療等安全性確保法の対象ですか。

医師・歯科医師の指示のもとで調製し、自院の患者に用いる場合は、現行法の対象外です。認定再生医療等委員会の審査を受けません。そのため、提供する医師・歯科医師自身が品質とリスクを把握する責任を負うと、日本再生医療学会のガイダンスは明記しています。なお2024年6月公布の改正法では、施行後2年をめどに検討する旨が附則に盛り込まれています。

どの由来を選べばよいですか。

用途による使い分けを示すだけの根拠は、現時点でありません。報告されているのは試験管内での分泌因子の組成差や遺伝子発現の傾向差であり、ヒトでの効果を比較した試験は存在しないためです。品質にばらつきを生む要因は9つ整理されており、由来はその1つにすぎません。培地の設計・製造工程・試験項目を先にご確認いただくほうが、比較としては実質的です。

出典

  1. [1] 厚生労働省医政局研究開発政策課「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」事務連絡、令和6年7月31日
  2. [2] 日本再生医療学会(協力:日本細胞外小胞学会)「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」2024年4月30日
  3. [3] Caseiro AR, et al. Mesenchymal Stem/Stromal Cells metabolomic and bioactive factors profiles: A comparative analysis on the umbilical cord and dental pulp derived Stem/Stromal Cells secretome. PLoS One. 2019;14(11):e0221378.
  4. [4] Terunuma A, et al. Comparative transcriptomic analysis of human mesenchymal stem cells derived from dental pulp and adipose tissue. J Stem Cells Regen Med.
  5. [5] Raileanu VN, et al. Banking Mesenchymal Stromal Cells from Umbilical Cord Tissue: Large Sample Size Analysis Reveals Consistency Between Donors.
  6. [6] Trigo CM, et al. Towards the Standardization of Mesenchymal Stem Cell Secretome-Derived Product Manufacturing for Tissue Regeneration. Int J Mol Sci. 2023.

本記事は用語・制度上の位置づけ・品質規格の読み方について説明したものです。当社の幹細胞セクレトームは研究用試薬(研究目的に限って使える区分。医薬品ではない)として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。

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