30秒でわかる、この記事の要点
- 培養上清液は「液ごと」回収したもの。目的成分と一緒に、ウシ血清などの動物由来成分・添加因子・細胞破片が同居しています。
- セクレトームは「最初から混ぜない」設計。後から取り除くのではなく、不要成分を持ち込まない培地・工程で作った、細胞が分泌した成分だけの液です。
- 違いは「説明のしやすさ」に現れる。ロット間で変動する要素が減り、成分の由来を製法から説明できるようになります。
1. 結論 — 分かれ目は「後から除く」か「最初から混ぜない」か
結論から述べます。培養上清液は、幹細胞を培養したあとの培養液を「液ごと」回収したものです。そこには細胞が分泌した成分に加えて、培養に用いた培地の成分(ウシ血清などの動物由来成分、添加因子)と、培養中に生じた細胞破片やアンモニアが同居しています。
一方のセクレトームは、このうち細胞が分泌した成分だけで構成されたものを指します。両者を分けるのは、回収後の精製技術ではありません。そもそも不要な成分を持ち込まない、培地と培養工程の設計です。
直感的なポイント
料理にたとえると、できあがった鍋から不要なものを後からすくい取るのが上清液の発想、最初から澄んだだしだけで仕立てるのがセクレトームの発想です。すくい取る方式では、細かく溶け込んだものまでは取り切れません。
2. 培養上清液には何が混ざっているのか
要点は1つです。一般的な製法では、細胞を育てるために加えた成分が、そのまま製品側に持ち込まれます。
一般的な間葉系幹細胞(骨や脂肪などに変化できる幹細胞)の培養では、細胞の増殖を助けるためにウシ胎児血清(FBS)を含む培地が使われます。上清液を回収すると、目的とする分泌成分と一緒に、次のものが混在します。
- 培地由来因子:ウシ血清に含まれるタンパク質、RNA など
- 添加因子:細胞の増殖を促すために加えた成分
- 細胞由来の不要物:死細胞、細胞破片、代謝産物であるアンモニア
これらは製品の目的成分ではありません。培養条件やロットごとに量が変動するため、組成のばらつきの原因にもなります。
3. 「後から除去する」という選択肢と、その限界
先に結論を述べると、後処理での除去は一段進んだ方法ですが、性質の近い成分までは分け切れないという原理的な上限があります。
不要成分を回収後に除去する手法もあります。限外ろ過やサイズ排除クロマトグラフィー(大きさの違いで成分をこし分ける方法)など、分子量の違いを利用して分離するものです。何も処理しない上清液に比べれば、安全性の面で前進した方法といえます。
ただし、完全な分離は容易ではありません。ウシ胎児血清に由来する RNA については、培養細胞由来の細胞外RNAの解析に干渉することが報告されています[1]。目的成分と不要成分の性質が近いほど、分離は難しくなります。
直感的なポイント
後から分ける作業は、白い砂にこぼした塩を、粒だけ拾い集めるようなものです。見た目も大きさも近いものどうしは、どれだけ丁寧に選り分けても取り切れません。「後から取り除く」という発想には、原理的な上限があります。この問題はウシ血清由来RNAは「後から除去」しきれないで詳しく扱っています。
3つの製法を並べて比較すると、次の表のようになります。
| 項目 | 一般的な培養上清液 | 除去技術を用いた上清液 | 幹細胞セクレトーム |
|---|---|---|---|
| 安全性 | 三段階評価の1(培地由来成分が残る) | 三段階評価の2(除去により低減) | 三段階評価の3(そもそも含まない) |
| 培地由来因子 | 多く含む | 培養後に除去 | 含まない |
| 添加因子 | 多く含む | 培養後に除去 | 含まない |
| ウシ血清 | 使用 | 使用(後で除去) | 不使用 |
| 設計思想 | — | 後から取り除く | 最初から入れない |
安全性は △ < ○ < ◎ の3段階。培地由来成分・添加因子がどれだけ残るかで評価しています。
4. 当社が「セクレトーム」と呼ぶための6つの条件
当社は、次の6つをすべて満たすものだけを「セクレトーム」と呼んでいます。順に確認していくチェックリストとしてもお使いいただけます。
-
細胞または組織から分泌された成分のみで構成される
培地に由来する成分が混ざった液は、この定義から外れます。
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回収用培地に、サイトカイン(細胞どうしの情報伝達を担うタンパク質)や成長因子が残存しない
回収用の培地に成長因子(細胞の増殖・修復を促すタンパク質)が入っていると、製品中の成長因子が「細胞が分泌したもの」なのか「もともと培地に入っていたもの」なのか区別できません。成分表の数値が何を意味するかが曖昧になります。
-
タンパク質、ペプチド、核酸、エクソソーム(細胞が放出する微小な膜の袋)などの膜小胞を含む
細胞が分泌した成分の総体である、という要件です。
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アンモニア、重金属などの有害物質、死細胞などの不純物を含まない
培養中に生じる代謝産物や細胞由来の不要物を、製品に持ち込まないことです。
-
ウシ血清を使わない
ウシ血清を使う限りは、どれだけ除去処理を重ねても、由来成分の残存を完全には否定できません。使わないという選択が、説明可能性をいちばん単純にします。
-
成分の裏付けがある(タンパク質定量、主要サイトカイン測定、エクソソーム解析など)
定義を名乗るだけでなく、測定データで示せることです。
実務上とくに効いてくるのが条件2と条件5です。どちらも、成分表の数値を「どこから来たのか」という由来から説明できるかどうかに直結します。
この6項目を供給元への質問リストに組み替えたものを培養上清液・セクレトームの選び方にまとめています。比較検討の際にお使いください。
5. 導入する側にとって、何が変わるのか
製法の違いは、日々の運用では「ばらつきの少なさ」と「説明のしやすさ」という形で現れます。具体的には次の3点です。
組成のばらつきが減る
培地由来の成分が入らないぶん、ロット間で変動する要素が減ります。当社では全ロットでサイトカイン量とエクソソーム中のmiRNA量を測定し、結果を開示しています。
成分の由来を説明できる
「この成分はどこから来たのか」という問いに、製法から答えられます。取扱いの記録や説明が求められる場面で、由来をたどれることの価値は小さくありません。
動物由来成分に関する説明が単純になる
ウシ血清を使用していないため、動物由来成分に関する懸念に対して、除去率ではなく「使っていない」と答えられます。
培養上清液そのものの定義と規格の読み方は幹細胞培養上清液とはに、セクレトームという概念の全体像はセクレトームとはに、「加えない」培地設計の種類は「加えない」培地設計にまとめています。
よくあるご質問
セクレトームは上清液の一種ですか。
広い意味では、どちらも細胞を培養した液から得られるものです。ただし当社は、本文の6つの条件をすべて満たすものだけをセクレトームと呼んでいます。市場には同じ語をより広く使う例もあるため、購入時は定義と成分データの有無をご確認ください。
エクソソームだけを取り出した製品との違いは何ですか。
セクレトームには、エクソソームに加えてサイトカインや成長因子などの可溶性因子(液に溶けた状態で働く成分)が含まれます。エクソソームのみを分離した製品は、可溶性因子を含みません。
成分データは開示されますか。
製造ロットごとにサイトカイン量とエクソソーム中のmiRNA量を測定し、ご要望に応じて試験報告書と成分データを提供しています。詳細は安全体制をご覧ください。
本記事は製品の製造方法と品質管理について説明したものです。当社の幹細胞セクレトームは研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。
出典
- [1] Wei Z, Batagov AO, Carter DR, Krichevsky AM. Fetal Bovine Serum RNA Interferes with the Cell Culture derived Extracellular RNA. Sci Rep. 2016;6:31175. doi:10.1038/srep31175