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「無血清=ゼノフリー」は誤解?
培地の「〇〇フリー」4区分の読み方

「無血清」と表示された培地に、ウシ由来の成分が入っていることがあります。「無血清」と「ゼノフリー」は同じ意味ではなく、包含関係にもないためです。この記事では、「〇〇フリー」と呼ばれる4つの区分がそれぞれ何を含まないのかを整理し、表示だけでは判断できない理由と、原材料をどこまで遡って確認すべきかを解説します。

30秒でわかる、この記事の要点

  • 「無血清」と「ゼノフリー」は別の軸。「無血清なのにウシ由来成分入り」の培地も、その逆も実在します。
  • 「加えない」表示は、安全の保証ではない。ゼノフリーでもヒト血清などは許容されるため、ヒト由来の病原体リスクは残ります。
  • 定義はメーカーごとに食い違う。比較の決め手は区分名ではなく、原材料の一覧をどこまで遡れるかです。

1. 4つの区分は、それぞれ「何を入れないか」の宣言

結論から言うと、4つの区分はどれも「この種類の成分を加えていません」という宣言であり、制限している対象がそれぞれ違います。まず定義を並べます。

培地の区分
区分何を含まないか何は含んでよいか
無血清
(serum-free)
血清・血漿そのもの血清以外の動物由来・ヒト由来成分(アルブミン、成長因子、ホルモンなど)
ゼノフリー
(xeno-free)
ヒト以外の動物に由来する成分ヒト由来成分(ヒト血清アルブミン、ヒト血小板ライセートなど)、組換えタンパク
動物成分不含
(ACF / AOF)
ヒトを含む動物の組織・体液に直接由来する原材料組換えタンパク(ただし製造工程は別途確認が要る)
化学的組成既知
(chemically defined)
組成が不明な成分(血清・加水分解物・組織抽出物)構造と濃度が判明している成分。高度に精製された組換えタンパクを含む

プロテインフリーは別の軸で、タンパク・ポリペプチドを成分として含まないものを指します。遊離アミノ酸や、植物・酵母由来の加水分解物は含みうるとされます。

血清の有無と動物由来成分の有無による4つの組み合わせ 血清を使うか使わないか、ヒト以外の動物由来成分を使うか使わないかの2軸で4象限に分かれます。無血清だがゼノフリーではない培地と、ゼノフリーだが無血清ではない培地の両方が実在します。 血清そのものを 使う 使わない 使う 使わない ヒト以外の 動物由来を ウシ胎児血清入りの培地 従来からよく使われる設計 無血清 ✕ ゼノフリー ✕ ウシ血清由来の小胞が混じりうる ウシ血清アルブミン等を添加 血清は抜いたが動物由来は残る 無血清 ○ ゼノフリー ✕ 「無血清」表示でも動物由来は入る ヒト血清・ヒト血小板ライセート 動物由来は避けたが血清は使う 無血清 ✕ ゼノフリー ○ ヒト由来の病原体リスクは残る どちらも使わない設計 血清も動物由来成分も入れない 無血清 ○ ゼノフリー ○ 当社はここに、さらにプロテインフリー 「無血清」と「ゼノフリー」は別の軸。片方だけを満たす培地が両方向に実在する。 「無血清だから動物由来は入っていない」とは言えないし、その逆も言えない。 血清の有無と動物由来成分の有無による4つの組み合わせ 血清を使うか使わないか、ヒト以外の動物由来成分を使うか使わないかの2軸で4象限に分かれます。無血清だがゼノフリーではない培地と、ゼノフリーだが無血清ではない培地の両方が実在します。 血清を使う / ヒト以外の動物由来を使う ウシ胎児血清入りの培地 従来からよく使われる設計 無血清 ✕ ゼノフリー ✕ ウシ血清由来の小胞が混じりうる 血清は使わない / 動物由来は使う ウシ血清アルブミン等を添加 血清は抜いたが動物由来は残る 無血清 ○ ゼノフリー ✕ 「無血清」表示でも動物由来は入る 血清は使う / 動物由来は使わない ヒト血清・ヒト血小板ライセート 動物由来は避けたが血清は使う 無血清 ✕ ゼノフリー ○ ヒト由来の病原体リスクは残る どちらも使わない どちらも使わない設計 血清も動物由来成分も入れない 無血清 ○ ゼノフリー ○ 当社はここに、さらにプロテインフリー 「無血清」と「ゼノフリー」は別の軸。 片方だけを満たす培地が両方向に実在する。
図1:「血清を使うか」「ヒト以外の動物由来を使うか」の2軸で分けた4つの組み合わせ。片方だけを満たす培地が両方向に実在します。

2. 「無血清=ゼノフリー」ではない — 答えている質問が違う

ここが実務でいちばん誤解される点です。この2つは包含関係にありません。切っている軸が違うためです。

直感的なポイント

食品表示の「国産」と「無添加」の関係に似ています。「国産」は産地の質問に、「無添加」は中身の質問に答えており、国産で添加物入りの食品も、外国産で無添加の食品もあります。同じように「無血清」は血清という材料の話、「ゼノフリー」は由来する生物の話です。片方の表示から、もう片方を推測することはできません。

実際に、片方だけを満たす培地が両方向で存在します。

  • 無血清だが、ゼノフリーではない。血清を抜いた代わりに、ウシ血清アルブミン(BSA)やウシ由来の粗タンパク画分を添加する設計がこれにあたります
  • ゼノフリーだが、無血清ではない。ヒト血清やヒト血小板ライセートを添加した培地は、ヒト以外の動物成分を含まないためゼノフリーに該当しうる一方、血清由来成分を使う点で無血清ではありません

したがって「無血清と書いてあるからウシ由来成分は入っていない」とは言えません。逆に「ゼノフリーだから血清は使っていない」とも言えません。

3. 「加えない」ことは、安全の保証ではない

誤解を招きやすいので、はっきり書きます。無血清もゼノフリーも、それ自体は安全性の保証ではありません。これらの表示は「使っていないもの」のリストであって、「残っているリスク」のリストではないからです。

無血清でも、ウシ血清アルブミンなどのウシ由来成分を含みえます。ゼノフリーはヒト由来成分を許容するため、ヒトの病原体に関するリスクが残ります。実際、ヒト血小板ライセートについてはE型肝炎ウイルスやパルボウイルスB19の伝播が論点になっています。

安全性は「何を抜いたか」ではなく、原材料ごとに個別に評価されるものです。区分の名前は、確認の出発点にはなっても、結論にはなりません。

4. 定義そのものが、メーカーごとに違う

さらに厄介な点があります。これらの用語には統一された国際定義がありません。同じ区分名でも、メーカーが違えば指している範囲が違います。

たとえば「動物成分不含」について、あるメーカーは「動物・ヒト由来成分を排除」と定義し、別のメーカーは「動物細胞株で作った組換えタンパクは含みうる」としています。プロテインフリーの範囲も供給元によって異なります。

原材料には「原材料のそのまた原材料」があることも見落とせません。パンの表示に「小麦粉」とあっても、その小麦粉がどう作られたかまでは書かれていないのと同じ構図です。実際、「動物由来原料不含」を掲げる場合でも、一次・二次の原材料が動物由来でないことを求める一方、三次原料までは動物組織由来でありうると明記している例があります。組換えタンパクであっても、発現や精製の工程で動物由来の原料が使われる余地は残ります。

表示だけでは、何が排除されているか判断できません。比較検討にあたっては、ラベルの区分名ではなく、原材料の一覧を、可能なかぎり遡って確認することをお勧めします。「その成分はどこ由来か」を一段ずつ尋ねるのが確実です。

確認は、次の順で進めると確実です。

  1. 区分名ではなく、原材料の一覧を出してもらう

    「〇〇フリー」の定義はメーカーごとに食い違うため、区分名だけでは何が排除されているかを特定できません。

  2. 各成分の「由来」を、一段ずつ遡って尋ねる

    組換えタンパクであっても、発現や精製の工程で動物由来の原料が使われる余地があります。三次原料まで確認できるのが理想です。

  3. ヒト由来成分が残る場合は、その評価方法を確認する

    ゼノフリーはヒト血清やヒト血小板ライセートを許容します。ヒトの病原体に関するリスクをどう評価しているかは、別途の確認事項です。

5. 血清を抜くと、培養はどうなるのか

結論から言うと、影響は培地の設計しだいで、一律に「遅くなる」わけではありません。素朴に血清を抜けば、接着性や増殖は落ちます。血清には増殖因子や接着因子が含まれているためです。

ただし「無血清にすると必ず増殖が遅くなる」とも言えません。最適化された無血清・ゼノフリー培地では、ウシ胎児血清を使った場合より倍加時間(細胞数が2倍になるまでの時間)が短かったという報告があります。細胞の種類と培地の設計に強く依存するためです。

つまり、血清を抜くこと自体が目的ではなく、抜いたうえで培養が成立する設計になっているかどうかが問われます。

6. 国内ガイダンスはどう述べているか

国内の指針も、この問題を明確に扱っています。日本再生医療学会のガイダンスは、細胞外小胞等の調製にあたって動物由来成分を含まないゼノフリー培地を使うべきとしています[1]

理由も具体的です。ウシ胎児血清を使用した場合には、ウシ血清由来の細胞外小胞が混入し、予期しない生物活性を発現する恐れがあると指摘されています。懸念される物質として、アルブミン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、アポB、マクログロブリン、ヘモグロビン、血液凝固因子などが具体的に列挙されています。

当社の設計 — 「後から取り除く」のではなく、最初から加えない

当社は、他動物由来原料フリー・血清フリー・プロテインフリーの培地をゼロから開発しています。回収用の培養液は培地由来タンパクを含みません。

これは「後から取り除く」工程を持たない設計です。性能を主張するものではありません。製品に含まれる成分の出所を、細胞が分泌したものだけに限定するための設計です。

直感的なポイント

部屋に砂を持ち込まなければ、掃除の腕前を議論する必要はありません。同じように、最初から加えない設計では「どれだけ取り除けたか(除去率)」という論点そのものが生じません。「後から取り除く」製法との違いは、この論点の有無にあります。

「後から取り除く」場合に何が残るのかはウシ血清由来RNAは「後から除去」しきれないに、製法3段階の比較は幹細胞培養上清液とセクレトームの違いにまとめています。

よくあるご質問

「無血清」と書いてあれば、ウシ由来の成分は入っていないのですか。

そうとは限りません。無血清は「血清・血漿そのものを含まない」という意味で、血清以外の動物由来成分は許容されます。血清を抜いた代わりにウシ血清アルブミンなどを添加する設計が実在します。ウシ由来成分の有無を確認したい場合は、ゼノフリーかどうかを別途お尋ねください。

ゼノフリーであれば安全ということですか。

安全性の保証ではありません。ゼノフリーはヒト以外の動物由来成分を含まないという意味で、ヒト血清やヒト血小板ライセートは許容されます。そのためヒトの病原体に関するリスクは残ります。安全性は「何を抜いたか」ではなく、原材料ごとに個別に評価されるものです。

これらの用語に統一された定義はありますか。

ありません。メーカーや文献によって定義が食い違います。たとえば動物成分不含について、ヒト由来成分まで排除するとする定義もあれば、動物細胞株で作った組換えタンパクは含みうるとする定義もあります。表示の区分名ではなく、原材料の一覧を遡って確認されることをお勧めします。

出典

  1. [1] 日本再生医療学会(協力:日本細胞外小胞学会)「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」2024年4月30日

本記事は培地の区分と製造上の設計について説明したものです。当社の幹細胞セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)は研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。

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