30秒でわかる、この記事の要点
- クラスの数字は、空気1立方フィートに浮かぶ0.5µm以上の粒子の数。数字が小さいほどきれいで、クラス100はクラス10,000より100倍きれいです。
- 根拠だった米国規格は2001年に廃止されている。現行はISO 14644-1で、クラス100はISOクラス5、クラス10,000はISOクラス7にほぼ対応します。
- 安全キャビネットの「クラス」は清浄度ではない。JISのクラスI・II・IIIは封じ込めの方式の区分です。「クラス100の安全キャビネット」は、別々の2つの物差しを1語に重ねた言い方です。
1. 「クラス」は、空気1立方フィートに浮かぶ粒子の数
結論から言うと、クリーンルームの「クラス〇〇」の数字は空気1立方フィート(約28.3リットル)のなかに浮かんでいる、直径0.5µm以上の粒子の個数の上限です。
クラス100なら100個以下、クラス10,000なら10,000個以下。数字が小さいほどきれいという、少し直感に反する並びになっています。等級の番号ではなく、汚れの実測値そのものを名前にしているためです。
0.5µmは、髪の毛の太さのおよそ150分の1です。目に見えないこの大きさの粒子を基準にするのは、細菌や真菌が単独で浮遊することは少なく、ほこりや皮膚片に付着して空気中を運ばれるためです。粒子を減らせば、それに乗ってくる微生物も減ります。
2. 「0.5µm以上」という前提が、表示では省かれている
クラスの数字だけを見ると絶対的な指標のようですが、どの大きさの粒子を、どこで、いつ測ったかが決まってはじめて意味を持ちます。
まず粒径です。基準は0.5µm以上の粒子で、それより小さい粒子は数に入りません。次に測定場所。同じ部屋でも、吹き出し口の真下と隅では値が違います。そして測定時の状態です。誰もいない部屋と、人が作業している部屋では桁が変わります。
この3つの前提は、カタログの「クラス10,000」という表記からは読み取れません。委託先を比べるときに数字だけを並べても、同じものを比べたことにならないのはこのためです。
3. 根拠だった米国規格は、2001年に廃止されている
「クラス100」「クラス10,000」という呼び方は、米国連邦規格 FED-STD-209E に由来します[1]。1992年に定められたこの規格は、2001年11月29日に米国一般調達局(GSA)が廃止し、国際規格である ISO 14644-1 および ISO 14644-2 に置き換えられました。
つまり「クラス10,000」は、四半世紀前に失効した規格の言い方です。それでも国内の設備図面やカタログで使われ続けているのは、現場で通じる呼び名として定着しているためで、誤りというわけではありません。ただし正式な根拠を示すなら、現行のISO表記が必要になります。
現行の ISO 14644-1 は、粒子数を1立方フィートではなく1立方メートルあたりで数えます[2]。単位が違うため厳密な換算ではありませんが、実務上は次のように対応させます。
| 旧:FED-STD-209E | 1立方フィートあたり | 現行:ISO 14644-1 | 1立方メートルあたり |
|---|---|---|---|
| クラス100 | 100個 | ISOクラス5 | 3,520個 |
| クラス1,000 | 1,000個 | ISOクラス6 | 35,200個 |
| クラス10,000 | 10,000個 | ISOクラス7 | 352,000個 |
| クラス100,000 | 100,000個 | ISOクラス8 | 3,520,000個 |
1立方フィートは約0.0283立方メートルですから、クラス100を1立方メートルに直すと約3,531個になります。ISOクラス5の3,520個とほぼ重なるため、この2つは同じ清浄度を別の単位で言い換えたものと考えて差し支えありません。
4. 安全キャビネットの「クラス」は、清浄度のクラスではない
ここが最も混同されやすいところです。「クラス100の安全キャビネット」という表現には、由来のまったく違う2つの「クラス」が重なっています。
安全キャビネット(バイオハザード対策用キャビネット)の正式な「クラス」は、JIS K 3800 が定めるクラスI・クラスII・クラスIIIの3区分です[3]。これは空気の清浄度ではなく、何を守るための封じ込め方式かによる分類です。
- クラスI:作業者と周囲の環境を守る。試料が室内の浮遊物で汚れることは防げない
- クラスII:作業者・環境・試料の3つを守る。細胞培養で使うのはこの区分で、目的別にタイプA1・A2・B1・B2に分かれる
- クラスIII:完全に密閉し、グローブを介して操作する
つまりJISのクラスの数字は、大きいほど封じ込めが厳重という並びで、清浄度クラスとは向きすら逆です。では「クラス100の安全キャビネット」とは何を指しているのか。これはキャビネット内部の作業空間の清浄度を、旧・米国規格の言い方で表したものです。JISのクラス区分の話ではありません。
5. なぜ部屋と作業面で、清浄度を分けるのか
製造設備の説明に2つの数字が並ぶのは、部屋全体と、細胞に直接触れる場所とで、求められる清浄度が違うためです。
部屋全体をクラス100に保つことは技術的には可能ですが、空調の風量も運転費用も跳ね上がります。それよりも、部屋はクラス10,000に保ち、細胞の容器を開ける作業だけをクラス100の空間で行うほうが、費用対効果が高く、管理も現実的です。
この入れ子は、汚染がどこで起きるかという理解に基づいています。培養液や上清液が空気に触れるのは、容器のふたを開けている数分間だけです。その数分をいちばんきれいな場所に閉じ込めれば、部屋全体を同じ水準にしなくても製品は守れます。
直感的なポイント
手術室を思い浮かべると分かりやすくなります。病院全体を手術室と同じ清浄度にはしません。いちばん無防備になる瞬間が起きる場所を限定して、そこだけを厳しく管理するという考え方は、細胞の製造でも同じです。
6. 受託培養・製造の委託先に確認する5項目
エクソソームや幹細胞培養液の製造を委託する場合、「クラス10,000」という表示そのものより、その数字がどう裏づけられているかが実質的な差になります。確認する順に並べます。
- その数字は、部屋のものか作業面のものか。「クラス100で製造」とだけ書かれている場合、部屋全体なのかキャビネット内なのかで意味がまったく違います。
- 測定は、非作業時か作業時か。人が入って手を動かしている状態での値かどうかを尋ねます。誰もいない部屋の値は、製造中の環境を表していません。
- 浮遊粒子の測定記録はあるか。頻度は。設計上の清浄度ではなく、実測の報告書が定期的に出ているかを確認します。
- 安全キャビネットのJIS区分と点検記録。クラスIIのどのタイプか、定期点検(風速・HEPAフィルターの漏れ)の記録が残っているか。
- 清浄度以外の管理はどうなっているか。部屋の差圧、気流の向き、更衣手順、環境微生物の測定。粒子数は環境管理の一部にすぎません。
清浄度の数字は、それ単体では品質を保証しません。製品の無菌性を示すのは最終製品の試験結果であり、製造環境はその確からしさを支える条件です。両方を確認してはじめて、製造の質を評価したことになります。
最終製品の試験で何がどこまで分かるのかは培養上清液の「安全性試験済み」はどこまで信用できるかに、供給元へ尋ねる項目の一覧は供給元に確認すべき6項目にまとめています。
当社の製造環境と、受託培養
当社は東京・銀座の製造施設にある約100坪のCPC(細胞培養加工室)で、ドナー選定から充填まで一貫して製造しています。作業室はクラス10,000、その中に置いた安全キャビネットの作業空間がクラス100です。この記事で整理した区分に当てはめると、作業室がISOクラス7、キャビネット内がISOクラス5に相当します。
この設備で、受託培養も承っています。動物由来成分を使わない培養条件での拡大培養や、細胞数・細胞径・表面マーカーの測定に対応します。細胞の種類・必要量・スケジュールによってはお受けできない場合がありますので、まずはご相談ください。お問い合わせフォームの「受託培養のご相談」からご連絡いただけます。
製造環境は、見学していただけます
清浄度は、書面の数字より実際の現場をご覧いただくほうが確かです。銀座製造施設では工場見学を受け付けています。
| 所在地 | 〒104-0061 東京都中央区銀座4-2-2 第1弥生ビルB1(東京メトロ 銀座駅 C8出口直結) |
|---|---|
| 見学時間 | 平日 10:00〜17:00(要事前予約) |
| 所要時間 | 約30分 |
| 対象 | 医療機関・研究機関に所属の医師・研究者の方 |
| 費用 | 無料 |
受託培養をご検討の場合も、まず見学で製造環境をご確認いただくことをお勧めしています。この記事で挙げた5項目は、当社に対しても同じようにお尋ねください。
よくあるご質問
クラス10,000とISOクラス7は、まったく同じ意味ですか。
厳密には異なります。旧規格は1立方フィート、ISOは1立方メートルを単位としており、換算値も完全には一致しません(クラス100は約3,531個/m³、ISOクラス5は3,520個/m³)。ただし実務上は同じ清浄度を指すものとして扱われています。
「クラス100の安全キャビネット」という表記は間違いですか。
間違いではありませんが、正確ではありません。JISが定める安全キャビネットのクラスはI・II・IIIの3区分で、100という数字はそこには出てきません。キャビネット内部の作業空間の清浄度を、旧・米国規格の言い方で表した慣用表現です。JISの区分を知りたい場合は「クラスIIのどのタイプか」を別に尋ねる必要があります。
数字が小さいほうがきれい、というのは覚えにくいのですが。
等級の順位ではなく、汚れの実測値をそのまま名前にしているためです。「クラス100=粒子100個まで」と読み替えると、大小の向きで迷わなくなります。ISO表記(クラス5、クラス7)はこの直感と逆に、数字が小さいほどきれいという並びを保ったまま桁だけを表しています。
受託培養はお願いできますか。
承っています。動物由来成分を使わない培養条件での拡大培養や、細胞数・細胞径・表面マーカーの測定に対応します。細胞の種類・必要量・スケジュールによってはお受けできない場合がありますので、お問い合わせフォームの「受託培養のご相談」からご連絡ください。
見学だけでもお願いできますか。
可能です。ご購入や受託培養のご契約は前提ではありません。平日10:00〜17:00、所要約30分、費用は無料です。医療機関・研究機関に所属の医師・研究者の方を対象に、事前予約制で受け付けています。
クリーンベンチと安全キャビネットは同じものですか。
違います。クリーンベンチは中の試料を清浄な空気で守る装置で、作業者の保護は目的に含まれません。安全キャビネットは作業者と周囲の環境も守ります。ヒト由来の細胞を扱う場合に必要なのは後者です。
出典
- [1] FED-STD-209E "Airborne Particulate Cleanliness Classes in Cleanrooms and Clean Zones" 米国連邦規格、1992年9月11日。2001年11月29日に米国一般調達局(GSA)が廃止し、ISO 14644-1 および ISO 14644-2 に置き換え
- [2] ISO 14644-1:2015 "Cleanrooms and associated controlled environments — Part 1: Classification of air cleanliness by particle concentration"
- [3] JIS K 3800:2021「バイオハザード対策用クラスIIキャビネット」(2009年版を改正)
本記事は製造環境を表す規格の読み方を説明したものです。当社の幹細胞セクレトーム(細胞が培養中に分泌した成分の総体)は研究用試薬として供給しており、特定の疾患に対する効果を示すものではありません。