30秒でわかる要点
- これは法律ではなく、通知に付いた「指針」: 令和8年6月12日 医政研発0612第1号による課長通知の別紙に置かれた技術的指針です。通知が挙げる主な変更内容は5項目で、うち3つは別添の新規作成(核酸増幅法=別添3補遺、環境モニタリングの異常値=別添7、輸送・保管=別添8)です
- 無菌試験は「4つの場面」に分けて書かれている: 工程内管理/出荷判定・投与判断/培養工程のない特定細胞加工物等/長期保存される特定細胞加工物等の4つの見出しが置かれています。どの場面で行った試験なのかで、読み方が変わります
- 対象は法第2条第6項の「特定細胞加工物等」: 条文は「特定細胞加工物及び特定核酸等」と定めています。培養上清を用いる医療技術は、細胞が含まれないことが明らかである場合には法の対象外であると令和7年5月30日の事務連絡が記載しています。研究用試薬として供給される培養上清液は、この指針が直接適用される物ではありません。ただし細胞を加工して得たミトコンドリアは特定細胞加工物に該当するとされています
1. この第2版は、法律なのか、通知なのか?
法令の条文ではありません。令和8年6月12日 医政研発0612第1号による課長通知の一部改正で、その別紙として置かれた技術的指針です。
宛先は各都道府県・各保健所設置市・各特別区の衛生主管部(局)長で、管下の医療機関及び関係機関等への周知を求めています。
この指針が示しているのは、法律と省令が定めた事項の具体的な考え方や方法です。元にあるのは、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号)と、同法施行規則(平成26年厚生労働省令第110号)です。両者が特定細胞加工物等製造事業者の責務として定めている事項について、その中身を示すものとして作られています。
通知は、この指針の来歴も書いています。施行通知(令和7年5月15日付け医政研発0515第18号)のⅦ.(55)省令第101条関係で示した「別途通知される指針」が、令和7年10月6日付け医政研発1006第1号の別紙(第1版)であり、今回その別紙を第2版に改めた、という流れです。
課長通知中、「「特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針」(以下「本指針」という。)」とあるのは、「「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(令和8年6月12日第2版)」(以下「本指針」という。)」とする。
「特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針」の一部改正について(令和8年6月12日 医政研発0612第1号)記(1)記(1)が書き換えているのは、第1版を定めた課長通知の中で指針を指している文言です。通知本文のほうは、その別紙について「第2版として改正することといたしました」と書いています。なお、通知そのものの標題には、改正前の指針名(「等」を含まない形)が用いられています。
誰が読むことを求められている文書か
通知は、本指針を技術的指針と位置付けています。その目的は、細胞の採取から製造工程、品質試験、保管・輸送過程、再生医療等提供機関における提供に至る一連の過程における微生物学的安全性を確保することです。そのうえで、次の者を挙げています。
- 再生医療等提供機関の管理者
- 再生医療等を提供する医師・歯科医師
- 特定細胞加工物等製造事業者
- 認定再生医療等委員会等
通知はこれらを列挙したうえで、「再生医療等の提供に関わる全ての者が参照することが求められます」と書いています。
指針の末尾には、「特定細胞加工物等の適切な無菌試験の実施に関する検討会議」の構成員10名(令和8年5月現在)が掲げられています。指針本文の「1 はじめに」は、ここで示すのが考え方及び推奨事項であることを断り、個々の再生医療等のリスク、製造方法、提供体制等に応じて「科学的合理性に基づき適切に適用されるべきもの」であると書いています。
2. 第2版では、何がどう変わったのか?
通知の記(2)が主な変更内容として5つを挙げています。対象の拡大、別添3補遺の作成、別添6の一部更新、別添7の作成、別添8の作成です。
同じ5項目が、指針本文の冒頭にも【第2版における主な変更内容】として置かれています。
通知の記(2)が挙げている5項目は、次のとおりです。5つのうち3つは、別添を新しく作ったというものです。
- 本指針の対象を特定細胞加工物等に拡大
- 無菌試験の代替として核酸増幅法(NAT)を用いる場合の考慮事項(別添3補遺)を作成
- 特定細胞加工物等製造施設の清掃・消毒について(別添6)を一部更新
- 環境モニタリングで異常値が検出された場合に求められる対応(別添7)を作成
- 特定細胞加工物等の輸送・保管中の管理について(別添8)を作成
「特定細胞加工物」から「特定細胞加工物等」へ
1つ目の対象の拡大について、指針の「1 はじめに」は範囲を条項で書き分けています。
本指針は、主な対象である特定細胞加工物(法第2条第4項に規定するものをいう。)に加え、滅菌工程の適用が不可能な核酸等(法第2条第5項に規定するものをいう。患者由来の核酸等を含む。)を含む特定細胞加工物等を対象とし、特定細胞加工物等の微生物学的安全性を確保するための考え方及び推奨事項を示すものであり、個々の再生医療等のリスク、製造方法、提供体制等に応じて、科学的合理性に基づき適切に適用されるべきものである。
特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)1 はじめに主な対象は法第2条第4項の特定細胞加工物で、そこに、滅菌工程の適用が不可能な核酸等(法第2条第5項に規定するもの。患者由来の核酸等を含む)が加わった、という書き方です。
指針本文は、冒頭で「特定細胞加工物等(法第2条第6項に規定するものをいう。以下同じ。)」と定義を置いています。法第2条第6項が定めているのは、次の条文です。
「特定細胞加工物」は第2条第4項が、「特定核酸等」は第2条第5項が定義しています。第5項は「核酸等」と「特定核酸等」の2つを置いており、特定核酸等は再生医療等に用いられる核酸等のうち医薬品及び再生医療等製品であるもの以外のものとされています。
文書の構成
第2版は、本文8章と別添8本、および別添3の補遺1本からなります。本文の章立ては、はじめに/微生物学的安全性の考え方/無菌試験の役割/無菌試験の設定における検討事項/無菌試験の選択/環境モニタリングと清掃/輸送・保管中の管理/投与後の監視です。
次の表は、別添8本と補遺1本を目次の順に並べ、通知の記(2)がそれぞれをどう扱っているかを対応させたものです。
| 別添 | 表題 | 通知の記(2)での扱い |
|---|---|---|
| 別添1 | 迅速無菌試験法の具体例 | 記載なし |
| 別添2 | 再生医療等提供計画における記載方法 | 記載なし |
| 別添3 | 迅速無菌試験法の性能と特定細胞加工物等への適用 | 記載なし |
| 別添3補遺 | 無菌試験の代替として核酸増幅法(NAT)を用いる場合の考慮事項 | 作成 |
| 別添4 | 無菌操作工程における無菌性を担保するために留意すべき事項 | 記載なし |
| 別添5 | 環境モニタリングについて | 記載なし |
| 別添6 | 特定細胞加工物等製造施設の清掃・消毒について | 一部更新 |
| 別添7 | 環境モニタリングで異常値が検出された場合に求められる対応 | 作成 |
| 別添8 | 特定細胞加工物等の輸送・保管中の管理について | 作成 |
表題は第2版の目次からの転記。「扱い」欄は通知の記(2)が挙げる5項目に基づく。記載のない別添について、第1版との異同は通知に書かれていない。
3. 無菌試験は、どの場面に分けて書かれているのか?
指針の「3 微生物学的安全性の確保のための無菌試験の役割」が4つに分けています。工程内管理、出荷判定・投与判断、培養工程のない場合、長期保存される場合です。
第3章の冒頭は、最終的な提供の可否の判定のみならず、工程内管理としても迅速無菌試験の実施が求められる、と書いています。
指針の第3章は、(1)から(4)までの4つの見出しを置いています。(1)工程内管理、(2)出荷判定・投与判断、(3)培養工程のない特定細胞加工物等、(4)長期保存される特定細胞加工物等です。
次の表は、この4つの区分ごとに、指針が何を書いているかを並べたものです。
| 区分 | 指針が書いていること |
|---|---|
| (1)工程内管理 | 製造工程における微生物汚染の早期発見、交差汚染の防止、汚染が起きたときの原因究明などで重要な情報を提供する。培養が一週間以上に及ぶ場合には、汚染の拡大を防止するため、中間体の無菌試験を実施することが必要 |
| (2)出荷判定・投与判断 | 適切なタイミングでの実施が必要。標榜上の検出感度等に加え、投与量や投与部位・経路等に応じて、被験検体のサンプリング方法や量も含めて感度等を事前に確認する |
| (3)培養工程のない特定細胞加工物等 | 製造工程での菌の増殖リスクが低いと判断した場合には、十分な汚染防止対策を前提に実施を不要とする選択肢もあり得る。ただし長期に保存する場合や無菌的部位への投与を行う場合には実施を考慮すること。一部について定期的に実施し、製造工程の無菌性の検証を行うことが求められる |
| (4)長期保存される特定細胞加工物等 | 提供の可否を判断する無菌試験に要する時間的制約は大きなものではないと考えられる。培養法を用いた感度の高い無菌試験法を実施することが望ましい |
各欄は指針の第3章(1)から(4)までの記述の要約。原文は下の引用および本文を参照。この4区分が第1版にもあったかどうかは、通知の記(2)が挙げる変更内容には書かれていない。
(3)に置かれている条件
(3)は、条件を付けたうえでの記述です。指針は、第三種再生医療等として最も多く提供されているものとして多血小板血漿(PRP)を挙げ、培養工程がなく製造工程そのものが非常に短時間である特定細胞加工物等について、次のように書いています。
このような特定細胞加工物等の場合、万が一、微生物の迷入があった場合でも製造工程中での増殖リスクは低いと推察されるため、製造工程での菌の増殖リスクが低いと判断した場合には、十分な汚染防止対策を前提に無菌試験の実施を不要とする選択肢もあり得る。ただし、製造した特定細胞加工物等を長期に保存する場合や体内で免疫細胞による監視が存在しない無菌的部位(関節腔、腹腔、髄腔等)への投与を行う場合には、無菌試験の実施を考慮すること。また、製造した特定細胞加工物等の一部について定期的に無菌試験を実施し、製造工程の無菌性の検証を行うことが求められる。
同指針 3(3)培養工程のない特定細胞加工物等指針の第4章(1)も、同じところを扱っています。数10mLの自己血液から医療機器として承認されたキットを用いてPRPを調製し、抜歯等の後の止血や組織再生を目的に使用(皮下投与)する場合を挙げ、汚染による感染症発症のリスクは低く、無菌試験の実施を不要とする判断が可能な場合もあり得る、としています。
そのうえで「ただし投与部位を含めたリスクの評価が必要である」と書き、続けて「その一方で」培養工程を伴わない特定細胞加工物等であっても定期的に無菌試験を実施し、無菌製造工程の完全性を担保することが重要である(3(3)参照)、としています。
製法の違いで、試験を置く位置が変わる
指針の第4章(3)は、3〜4日の比較的短期の培養工程で培養法を用いた迅速無菌試験を実施した場合を挙げています。この場合、提供の可否を判断するまでに最終産物における無菌試験の陰性確認を行うことが不可能な場合が多い、としています。
そこで、出荷判定又は提供の可否の判断を目的として培養法以外の迅速無菌試験を実施することが有用であり、培養法による無菌試験を別途実施する場合には、その結果は工程内試験か中間体試験として位置付けられると書いています。ただし、被験検体採取以降の工程を閉鎖系の無菌化工程として実施できることが確認でき、無菌化工程以降で菌の増殖が否定できる場合はこの限りではない、と続きます。
別添1の図1は、この関係を「製法の違いに応じた無菌試験の適用(例)」として図で示しています。
同(3)は、外部機関に委託して製造している場合について、委託機関からの輸送に時間を要し、迅速無菌試験法の実施から患者への投与までに時間が空く可能性を挙げています。そのうえで、無菌試験の結果を適用できる有効期間を規定しておくこと、輸送時の温度管理(施行規則Ⅶ(48)省令第99条第1項第25号関係)や交差汚染の防止対策(施行規則Ⅶ(43)省令第99条第1項第11号関係)をあらかじめ検討すること、実際の輸送時における温度等の記録も保管しておくことを書いています。
4. 「検出感度」は、どう分けて書かれているのか?
標榜検出感度と目的検出感度の2つに分けています。目的検出感度は、標榜検出感度に被験物の全体量を被験用量で割った値を掛けたものです。
指針は、標榜検出感度が個別の特定細胞加工物等に必要とされる目的検出感度を表しているわけではない、と注意を書いています。
指針の第4章(2)は、似た言葉を定義して使い分けています。
- 標榜検出感度 試験法が標榜する検出限界値
- 目的検出感度 無菌試験の対象となる被験物の全体量に対して最終的に求めるべき検出限界値
- 被験用量 試験に供するために採取する被験検体の用量
この2つの感度は、1本の式で結ばれています。〔目的検出感度〕=〔標榜検出感度〕×(〔被験物の全体量〕÷〔被験用量〕)です。指針が挙げる例では、100mLの培養液を被験物として1mLの被験検体を採取して試験を行う場合、使用する無菌試験の標榜検出感度が被験用量あたり10cfuであっても、被験物の全体量から考えた目的検出感度は1000cfuしか得られません。
直感的なポイント
大きな鍋のスープを、小さじ1杯だけすくって確かめるようなものです。すくった側をどれだけ丁寧に調べても、鍋全体について言えることは、すくった割合の分だけ粗くなります。指針も、標榜検出感度は目的とする個別の特定細胞加工物等に対して必要とされる目的検出感度を表しているわけではない、と注意を書いています。
局方無菌試験との差
指針の第4章(2)は、無菌製剤に適用される医薬品の局方無菌試験の検出感度を1cfu/被験検体としています。別添1の表1は、局方無菌試験法(EP, JP, USP 公定書)の欄に、標榜検出感度「理論値:1〜3」、試験時間14日間、被験用量1〜1000mLと記載しています。
迅速無菌試験法のほうは、2つに分けて書かれています。検体を培養することにより高感度に検出可能な試験法(培養法)が1被験検体あたり1〜10cfu、培養を行わず菌の有無の代替指標となるシグナルを検出する直接法が1被験検体あたり10〜100cfu前後です。
指針は、時間的・量的制約のある特定細胞加工物等に局方無菌試験に沿った試験実施を求めることは現実的ではない場合があるとして、投与方法や投与量によるリスクを考慮したリスクベースの迅速無菌試験が有用であるとしています。
同時に、非培養条件又は数日程度の培養下での濁度の目視やグラム染色のみを無菌試験として採用することは、検出感度の点から無菌試験法として不適切であると書いています。ただし、培養法と併用した迅速無菌試験を工程の確認のための試験に用いること、被験検体を濃縮してその濃縮物にグラム染色試験を用いることはあり得る、と併記されています。
被験用量と投与部位
被験物の全体量に対してどれだけの被験用量を採るかについて、指針は米国薬局方(USP1071)の考え方を別添1の表3として引いています。次の表は、被験物の全体量ごとに、その考え方が示す被験用量を並べたものです。
| 被験物の全体量 | 被験用量 |
|---|---|
| 1mL以下 | 複数検体の1バイアル |
| 1〜40mL | 1mL |
| 40〜100mL | 20mL |
| 100mL以上 | 10%又は20mL以上 |
指針は、用いる迅速無菌試験法との組合せによってはこの考え方に従う必要はなく、被験物全体をメンブランフィルターで濾過して微生物をトラップした場合は、被験用量にかかわらず被験物全体を対象に検査を行ったことと同等の検出感度が得られると考えてよい、としている。
投与部位と投与量については、別添1の表2が、米国薬局方(USP GC1071)が提唱するリスクベースの考え方として、7つの投与経路を挙げています。次の表は、投与部位ごとに、代表的な投与量とリスクレベルを並べたものです。
| 投与部位(ルート) | 代表的な投与量 | リスクレベル |
|---|---|---|
| 皮内 | <0.1mL | 非常に低 |
| 皮下 | <1mL | 低 |
| 筋肉内 | <0.3mL | 中程度 |
| 髄腔内 | 1〜10mL | 高 |
| 静脈カテーテル静注 | 1〜60mL | 比較的高 |
| ピギーバック点滴静注 | 25〜250mL | 高 |
| 点滴静注 | >250mL | 高 |
別添1 表2からの転記。指針は、米国における病院内の細菌感染の調査から、投与物に100cfuを超える微生物汚染があった場合に投与された者に感染症が発生することが米国薬局方で報告されている、と説明したうえでこの表を置いている。
5. 核酸増幅法(NAT)を使う場合、何を確かめるのか?
別添3補遺が、位置付け、実施方法の留意点、設定に当たっての技術的考慮事項、抽出・増幅・検出操作の考慮事項の4項目を挙げています。
この補遺は第2版で作成されたもので、通知が挙げる主な変更内容の1つです。
別添3補遺の表題は「無菌試験の代替として核酸増幅法(NAT)を用いる場合の考慮事項」で、次の4項目からなります。
- 迅速無菌試験法としてのNATの位置付け
- NATの実施方法における留意点
- NATの設定に当たっての技術的考慮事項
- 被験検体からのゲノムの抽出、増幅、検出操作についての技術的考慮事項
何を標的とし、どこまでの菌種を求めているか
(1)は、標的の置き方から書いています。NATを迅速無菌試験法として利用する場合、ゲノム配列の保存性が高いリボゾーマルRNA(rRNA)をコードするDNA配列(rDNA)を標的として設定されることが多い、としています。幅広い菌種を全て網羅する測定系の開発は容易ではないとされる、とも述べたうえで、求められている範囲を次のように書いています。
ただし、特定細胞加工物等の迅速無菌試験として、自然界の全ての菌種を標的とすることは必ずしも求められているわけではなく、表4.微生物の増殖アッセイの評価に用いる代表的なモデル菌種を参考として、CPC 等における製造工程、細胞採取、さらには用いる全材料や皮膚常在菌などから汚染が生じる可能性のある菌種が確実に検出できる NAT を採用することが有用である。
同指針 別添3補遺(1)ここで参照されている別添3の表4は、欧州薬局方の細胞培養製品の迅速無菌試験(EP2.6.27)から引かれたもので、好気性培地5菌種と嫌気性培地2菌種の計7菌種を推奨菌株とともに挙げています。
施設内で行う場合と、外部に委託する場合
(2)は、①特定細胞加工物等製造施設(CPC)において行う場合と、②外部委託で行う場合の2つに分けています。
①で挙げられているのは、施設内の汚染です。NATは数コピーという非常に少量の標的配列まで増幅できる技術であるため、増幅産物が施設内に漏れ出した場合には、本来陰性となるべきランコントロールまで陽性になってしまうことがある、として空間的な汚染防止対策を挙げています。一方で、施設内で行えば最終産物やそれに近い工程での検査が可能になり、より投与に近いタイミングで試験が実施できるという利点も書いています。
②で挙げられているのは、時間です。被験検体の輸送を含めて判定結果が得られるまでに時間を要するという欠点と、結果が得られるまで保管する場合に保管期間中に微量な汚染菌の増殖が起こる可能性を挙げ、次のように書いています。
NAT は局方無菌試験に比べると、検出限界値が高く微量の汚染を見逃がす可能性があることを念頭に置く必要がある。
同指針 別添3補遺(2)②項目の数
(3)は、NATを迅速無菌試験法として採用する際に評価しておく必要があるものとして、6つを挙げています。検出可能な菌種、適用可能な被験物、核酸抽出操作法・抽出効率、核酸増幅機序と増幅産物の検出法、キャリーオーバーなどの妨害要因の排除、判定基準やアルゴリズムです。そのうえで、①標榜検出感度や精度が得られるかの確認と、②被験物において目的検出感度が得られるかの確認の2項目を置いています。
(4)は、抽出・増幅・検出の操作についての技術的考慮事項を①から⑫までの12項目に分けています。増幅産物による環境汚染・偽陽性リスクの低減、環境常在微生物の菌種の確認、検出された環境常在微生物を用いた確認、核酸抽出に用いる資材のDNA汚染リスク、特定細胞加工物等に由来するゲノムの目的検出感度への影響、自動核酸抽出装置を用いる場合の留意点、被験用量と目的検出感度の関係、Direct NATの留意点、等温増幅法(LAMP法等)の留意点、カットオフ値の設定、ランコントロールの考え方、判定基準やアルゴリズムの設定です。
6. 新しく作られた別添7と別添8は、何を扱うのか?
別添7は環境モニタリングで異常値が検出された場合の対応を、別添8は輸送・保管中の管理を扱います。いずれも第2版で作成されたものです。
別添8は、逸脱が「重大な逸脱」と「重大な不適合」のどちらに当たるかを、過程ごとに書き分けています。
別添7 — 環境モニタリングで異常値が検出された場合
別添7は、目次上5項目で構成されています。(1)環境モニタリングで異常値が検出された場合の考え方、(2)清浄度管理基準の逸脱の考え方、(3)区域に応じた清浄度管理基準の逸脱時の対応の考え方、(4)原因解明と対策、(5)対策後の管理区域の清浄性の確認の考え方です。
その末尾には、番号の付かない参考(「安全キャビネットとクリーンベンチの違いについて」)が置かれています。別添7の冒頭は、作業者の導線を踏まえた教育の重要性と、安全キャビネットの構造とエアバリアなどの気流特性を十分理解した操作が求められるとして、この参考を参照させています。
(1)が前提に置いているのは、試験だけでは取りきれないという認識です。被験用量の限界や患者への投与までの時間的制約、被験検体の状況、採用した試験法等の特性によっても全ての微生物を検出することは困難であるとして、環境モニタリングによって製造工程での微生物の混入リスクを可能な限り低減することを挙げています。
管理基準から逸脱した際の対応手順については、2つのことが書かれています。CPC毎に作成し保管されている逸脱管理に関する手順書の中で明確にすること(施行規則第97条第4項第5号関係)と、製造手順等からの逸脱として取り扱うこと(施行規則第105条関係)です。
別添8 — 輸送・保管中の管理
別添8は、(1)輸送・保管における無菌性担保と、(2)輸送・保管における温度管理、輸送時間及び使用期限の管理の2項目からなります。(2)の下には、①凍結状態にて保管・輸送される場合、②非凍結状態にて保管・輸送される場合、③輸送・保管における取り違え防止の3つが置かれています。
(1)が判断の基準に置いているのは、密封状態です。容器や包装の破損やゆるみ、液体の漏れなど密封状態が確認できない場合は、無菌性は維持されていないと判断する必要があるとしています。
このような逸脱が報告された場合については、当該特定細胞加工物等の投与は中止すること、当該再生医療等提供計画については原因の同定と対策を実施し、その対策が有効に機能していることが確認されるまで中止すること、と書いています。
同じ逸脱でも、どの過程で起きたかによって呼び名と根拠が変わります。次の表は、別添8が過程ごとに置いている区分を並べたものです。
| 過程 | 区分 | 別添8が挙げている根拠 |
|---|---|---|
| 輸送過程 | 重大な逸脱 | 施行規則第99条第1項第25「項」に係る製造管理の一部(原文の表記。下の注を参照) |
| 保管(製造工程の一部である場合) | 重大な逸脱 | — |
| その他の保管(再生医療等提供機関又はその他の保管機関における保管中) | 重大な不適合 | 施行規則第20条の2第4項 |
報告先も分かれる。輸送過程又は製造工程における保管中に発生した場合は速やかに再生医療等提供機関へ報告(施行規則第105条第3項関係)、その他の保管過程で発生した場合は速やかに再生医療等提供機関の管理者及び実施責任者へ報告(施行規則第20条の2関係)と書かれている。なお輸送過程の根拠の号数について、別添8(1)の原文は「第25項」と表記されているが、同指針の第7章・第4章(3)・別添8(2)はいずれも「第25号」としている。
(2)②が書いているのは、温度と時間の関係です。特定細胞加工物等の無菌性が脆弱であり、温度管理についても常温以上の温度での保存条件を用いる場合について、保管期間は必要最低限の時間に設定すべきであるとしています。その理由として挙げられているのは、細菌では最適条件であれば5〜6時間で1,000〜10,000倍に増殖することが知られているという記述です。規定された保管期間を過ぎてしまった場合には、当該特定細胞加工物等を廃棄することが求められる、と続きます。
③は、自己由来特定細胞加工物等の品質管理では自己由来細胞を投与することを根拠にウイルス試験を実施しないケースがあることを挙げ、他家細胞の取り違え・誤投与により他家由来のウイルス等感染症伝播や免疫拒絶反応によるリスクが生じるとしています。充てん容器および包装等に取り違え防止を目的とした方策(バーコード管理やタグチップによる確認など)がとられる必要がある、と書かれています。
7. この指針は、研究用試薬の培養上清液にも適用されるのか?
指針の対象は法第2条第6項の特定細胞加工物等です。事務連絡が法の対象外としているのは、細胞が含まれないことが明らかである場合の培養上清を用いる医療技術です。
法の対象に入らないことは、その物の品質や安全性が確認されたことを意味するものではありません。
この指針は、再生医療等安全性確保法の下での特定細胞加工物等について書かれています。対象の範囲は、指針自身が「特定細胞加工物等(法第2条第6項に規定するものをいう。)」と条項で定義しています。ここに入らない物について、指針は何も述べていません。
指針本文に「培養上清」の語は出てきます。ただしそれは、無菌試験の被験物としての培養液を指すものです。指針第4章(2)は、被験物を「特定細胞加工物等、その培養液又は適切な洗浄液」と定義しています。供給される物としての培養上清液を対象に加えたものではありません。指針本文に「エクソソーム」「細胞外小胞」「細胞の分泌物」の語はありません。
細胞の分泌物が法の対象に入るかどうかを答えているのは、別の文書です。令和7年5月30日に厚生労働省医政局研究開発政策課が発出した事務連絡(法律等に関するQ&A)が、これを扱っています。
この事務連絡は、細胞に由来する物をひとまとめに扱っていません。
- 培養上清・セクレトーム これらを用いる医療技術は、細胞が含まれないことが明らかである場合には法の対象外であるとされています(A.1-1-08)
- エクソソームを含む細胞外小胞 これを用いた医療技術も、細胞を含まないことが明らかである場合には法の対象外であるとされています(A.1-1-07)
- 細胞を加工して得たミトコンドリア 特定細胞加工物に該当し、これを用いた医療技術は法の対象であるとされています(A.1-1-10)
どの答えも、主語は物ではなく医療技術です。A.1-1-07 から A.1-1-10 までの逐語と、A.1-1-07・A.1-1-08 に付けられた改正法附則のなお書きは、培養上清液・セクレトームは、どの法律のどこに置かれているかで扱っています。
ここから先は、まだ決まっていない
法の対象に入らないことは、その物の品質や安全性が確認されたことを意味するものではありません。附則の検討についても、事務連絡は「検討を加えること等が定められている」と書いているだけで、検討の結果や結論は示されていません。指針の側も、対象の外にある物について何が必要かを述べてはいません。
法の第1種から第3種までの区分は再生医療等安全性確保法の射程で扱っています。無菌試験・マイコプラズマ否定試験・エンドトキシン試験がそれぞれ何を見ているかは「安全性試験済み」の読み解き方にまとめています。
8. 用語の定義
この記事で使った用語は、いずれも指針か法の条文が定義しているものです。定義とその置き場所を並べます。
検出感度に関する語は、まとめて指針の第4章(2)に定義が置かれています。
次の表は、この記事に出てくる用語と、その定義を置いている文書を並べたものです。
| 用語 | 定義 | 定義を置いている箇所 |
|---|---|---|
| 特定細胞加工物等 | 特定細胞加工物及び特定核酸等 | 再生医療等安全性確保法 第2条第6項 |
| 特定核酸等 | 再生医療等に用いられる核酸等のうち、医薬品及び再生医療等製品であるもの以外のもの | 同法 第2条第5項 |
| 被験物 | 特定細胞加工物等、その培養液又は適切な洗浄液 | 指針 第4章(2) |
| 被験用量 | 被験物の全体量のうち、試験に供するために採取する被験検体の用量 | 指針 第4章(2) |
| 標榜検出感度 | 試験法が標榜する検出限界値 | 指針 第4章(2) |
| 目的検出感度 | 被験物の全体量に対して最終的に求めるべき検出限界値 | 指針 第4章(2) |
| NAT(核酸増幅法) | 無菌試験の代替として用いる場合の考慮事項が置かれている試験法 | 指針 別添3補遺 |
「特定細胞加工物」は再生医療等安全性確保法 第2条第4項が定義している。指針の側の定義は、本文で引いた箇所からの転記。
理解の確認
指針は「培養工程のない特定細胞加工物等については無菌試験の実施を不要とする選択肢もあり得る」と書いています。これを「培養工程がなければ無菌試験は要らない」と読めないのは、同じ段落に何が書かれているからですか。
指針の第3章(3)は、この選択肢を「製造工程での菌の増殖リスクが低いと判断した場合には、十分な汚染防止対策を前提に」という条件の下に置いています。そのうえで、製造した特定細胞加工物等を長期に保存する場合や、体内で免疫細胞による監視が存在しない無菌的部位(関節腔、腹腔、髄腔等)への投与を行う場合には無菌試験の実施を考慮すること、また製造した特定細胞加工物等の一部について定期的に無菌試験を実施し製造工程の無菌性の検証を行うことが求められる、と続けています。指針の第4章(1)も、実施を不要とする判断が可能な場合もあり得るとしたうえで「ただし投与部位を含めたリスクの評価が必要である」と書き、続けて「その一方で」培養工程を伴わない特定細胞加工物等であっても定期的に無菌試験を実施し無菌製造工程の完全性を担保することが重要である、としています。
特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)3(3)および4(1)(法令確認日 2026-09-12)
標榜検出感度が被験用量あたり10cfuの試験法を使えば、被験物についても10cfuの水準で無菌性を確認したことになりますか。指針が置いている式に沿って説明してください。
なりません。指針は〔目的検出感度〕=〔標榜検出感度〕×(〔被験物の全体量〕÷〔被験用量〕)という式を置いています。指針自身が挙げる例では、100mLの培養液を被験物として1mLの被験検体を採取した場合、標榜検出感度が被験用量あたり10cfuであっても、被験物の全体量から考えた目的検出感度は1000cfuしか得られません。指針は、標榜検出感度が目的とする個別の特定細胞加工物等に対して必要とされる目的検出感度を表しているわけではないことに注意する必要がある、と書いています。なお指針は、被験物として培養液又は洗浄液の全量を対象にメンブランフィルター法を適用し、微生物をトラップしたメンブランをそのまま試験に供した場合には、被験物の全体量を用いて無菌試験法を適用したことになるとしています。
同指針 4(2)および5(2)①(法令確認日 2026-09-12)
「細胞に由来する物であれば、再生医療等安全性確保法の対象から外れる」と読めないのはなぜですか。令和7年5月30日の事務連絡が細胞由来の物について示している答えのうち、法の対象であるとされているものを挙げて説明してください。
細胞を加工して得たミトコンドリアです。事務連絡は、これが特定細胞加工物に該当し、当該特定細胞加工物を用いた医療技術は法の対象である、としています。一方、エクソソームを含む細胞外小胞を用いた医療技術について法の対象外とされているのは「細胞を含まないことが明らかである場合」、培養上清・セクレトームについて法の対象外とされているのは「細胞が含まれないことが明らかである場合」という条件の下でのことです。またこの2つには、改正法の附則において細胞の分泌物を用いる医療技術については改正法施行後2年を目途として法の適用の在り方等について検討を加えること等が定められている、というなお書きが付いています。検討の結果は、この事務連絡には書かれていません。
再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて(令和7年5月30日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡)A.1-1-07、A.1-1-08、A.1-1-10(2026-09-12 確認)
- 特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)(令和8年6月12日 医政研発0612第1号 別紙)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- 「特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針」の一部改正について(令和8年6月12日 医政研発0612第1号 厚生労働省医政局研究開発政策課長)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号)第2条第4項・第5項・第6項e-Gov 法令検索(2026-09-12 確認)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則(平成26年厚生労働省令第110号)第20条の2・第97条・第99条・第105条e-Gov 法令検索(2026-09-12 確認)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて(令和7年5月30日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡)A.1-1-07/A.1-1-08/A.1-1-09/A.1-1-10 厚生労働省(2026-09-12 確認)