30秒でわかる要点
- これは法令ではなく、学会が出した文書: 一般社団法人日本再生医療学会が2024年4月30日に公表した第1版で、法令でも行政の通知でもない。巻末の「重要項目のまとめ」に集められているのは、現状確認項目1本と推奨項目10本の計11項目
- 調製の管理は「準じた」管理と書かれている: 2-2の推奨項目は、再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準及び薬機法下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に「準じた」品質管理・調製管理(製造管理)を実施するべきである、という一文。基準そのものは、それぞれの法令と省令の側に置かれている
- 規格は「そこにEVがある」ことの証明: 規格として一般的に設定される項目に挙がっているのは2つの証明(形状・サイズを有する粒子の存在と、EVマーカー分子の存在)。培地については動物由来成分を含まないXeno-freeの培地を使うべきであるとしている(3-1)
1. このガイダンスは、法令や行政の通知とどう違うのか?
一般社団法人日本再生医療学会が策定して公表した文書です。法令でも行政の通知でもなく、学会の名で出された文書にあたります。
第1版の日付は2024年4月30日で、協力として日本細胞外小胞学会が記載されています。
まず、この文書が誰の名前で出ているかを確認します。表紙には、座長として寺井崇二の名が置かれ、メンバー7名、書記1名、オブザーバー1名が続きます。発行は一般社団法人日本再生医療学会で、協力として日本細胞外小胞学会が記載されています。末尾には利益相反(COI)に関する開示が置かれ、対象期間を2023年1月から2023年12月までとしています。
本文は3つの章でできています。1がリスク・プロファイリング、2が調製工程(製造工程)・品質、3がEV調製物のチェック項目並びに効果検証です。冒頭の「ガイダンス作成に至った現状」は、この3つの項目を策定したと書いています。
記述に付いている2種類のラベル
各節には、「現状確認項目」または「推奨項目」というラベルの付いた囲みが置かれ、その下に「(解説)」が続きます。
巻末の「重要項目のまとめ」に集められているのは、現状確認項目1本と推奨項目10本の計11項目です。次の表は、その11項目を巻末の並び順のまま写したものです。
| 別 | 項目の内容(要約) | 対応する節 |
|---|---|---|
| 現状確認項目 | 薬事未承認のEV療法を提供する医師または歯科医師は、EV調製物の品質及びリスクのプロファイルに関して自ら十分に理解した上で、科学的妥当性と患者への安全性の確保に努めなければならない | 1-1 |
| 推奨項目 | リスクと危険因子の特定ならびにこれらの低減策の検討は、EV療法の開発早期から実施すべき | 1-2 |
| 推奨項目 | 有害事象発生時の原因究明のために、検体および調製(製造)・投与記録を保管することが重要 | 1-2 |
| 推奨項目 | 原料・材料の段階から一貫した工程中の無菌操作と種々の成分の混入防止策、および工程の管理 | 2-1 |
| 推奨項目 | 再生医療等提供基準及び薬機法下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に準じた品質管理・調製管理(製造管理) | 2-2 |
| 推奨項目 | (1)EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること、(2)EVマーカー分子が存在すること、の2つの証明 | 3-1 |
| 推奨項目 | 動物由来成分を含まないXeno-Freeの培地の使用 | 3-1 |
| 推奨項目 | 安全性または対象疾患に対する有効性と関連があると推定される品質特性を重要品質特性(CQA)と設定して解析 | 3-2 |
| 推奨項目 | in vitro力価評価系または非臨床in vivo評価系の確立 | 3-2 |
| 推奨項目 | モデル動物において、投与されたEVsが標的となる細胞、組織または臓器へ届くことの証明 | 3-3 |
| 推奨項目 | in vitro, in vivoでの評価系における、投与量と安全性・効果の関係の検証 | 3-3 |
巻末の「重要項目のまとめ」に置かれた順です。各項目は要約してあり、全文は本文の該当節にあります。本ページが以下で扱うのは、このうち2-1・2-2・3-1にあたる4番目から7番目までです。
ガイダンス自身が書いている適用の範囲
ガイダンスは、EVsについて細胞源の種類が多岐におよぶ可能性があり、天然型以外にも改変型が発展してくる見込みがある、としています。そのうえで、作成にあたって範囲を絞ったことを書いています。
そのため、本ガイダンス作成においては現状において利用が想定される「間葉系幹細胞」の「天然型のEVs」を意識し、上記の3つの項目に重要項目を絞ってまとめている。
なお、本ガイダンスは、現在の最新の知見を集めたもので、科学の進歩や発展、実際の治験等の実施例を踏まえ今後必要に応じて改訂するものとする。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)「ガイダンス作成に至った現状」末尾版は第1版、日付は2024年4月30日です。第2版以降は、2026年9月12日時点で同学会のウェブサイトに掲載を確認していません。
よく見かける説明と、現行
よく見かける説明
日本再生医療学会のガイダンスは、細胞外小胞等を扱うときの公的な基準である。
現行
法令でも行政の通知でもなく、一般社団法人日本再生医療学会が策定して公表した文書。記述は「現状確認項目」と「推奨項目」のラベルで置かれ、調製(製造)の管理についても、再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準及び薬機法下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に「準じた」管理を実施するべきである、という書き方になっている。基準そのものは、それぞれの法令と省令の側に置かれている。
根拠:細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版。2024年4月30日 一般社団法人日本再生医療学会)表紙・「重要項目のまとめ」・2-2。日本再生医療学会ウェブサイトで公表されているPDFで確認(2026-09-12)。
この文書の名称は、令和6年7月31日に厚生労働省医政局研究開発政策課が再生医療等提供機関の管理者あてに出した事務連絡にも現れます。同日に出た2本の事務連絡が何を書いているかは令和6年7月31日 事務連絡 — エクソソーム試薬に係る監視指導の6類型で扱います。
2. この文書は、誰に向けて書かれているのか?
薬事未承認の細胞外小胞を用いた治療を提供する医師または歯科医師です。1-1の現状確認項目が、名宛人をその形で書いています。
ガイダンスが目的として書いているのは、EV療法の実施者が確認すべき「現状確認項目」「推奨項目」を挙げて解説することです。
1-1の現状確認項目は、2024年4月30日時点での法の適用についての記述から始まります。そこから名宛人を導く形で書かれています。
EVsを医師または歯科医師の指示の下に調製(製造)しこれらの所属する医療機関の患者に施用する医療行為は、国内では「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(安確法)の対象外とされており、特定認定再生医療等委員会や認定再生医療等委員会の審査を受けることはない。したがって薬事未承認のEVs(EV調製物)を用いた治療(EV療法)を提供する医師または歯科医師は、EV調製物の品質及びリスクのプロファイルに関して自ら十分に理解した上で患者の安全確保に努めなければならない。
同ガイダンス 1-1 現状確認項目ここで注意が要るのは、この記述が2024年4月30日時点のものだという点です。令和7年5月30日付けで厚生労働省医政局研究開発政策課が出した事務連絡「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて」のA.1-1-07は、いわゆるエクソソームを含む細胞外小胞を用いた医療技術について、「細胞を含まないことが明らかである場合には、法の対象外である」と書いています。同じ答えは続けて、「改正法の附則において、細胞の分泌物を用いる医療技術については、改正法施行後2年を目途として、法の適用の在り方等について検討を加えること等が定められている」としています。
この記述が前提にしている法律の適用範囲は再生医療等安全性確保法の射程で、培養上清液やセクレトームが法令上どこに置かれているかは培養上清液・セクレトームは、どの法律のどこに置かれているかで扱います。
1-2が挙げている作業
1-2は、リスクと危険因子を特定する作業を推奨項目に置いています。並んでいる数は次のとおりです。
- 臨床使用に関連する安全上の一般的リスク (a)から(h)までの8つ
- 各リスクに関与する可能性のある危険因子の例 (a)から(l)までの12
- そのうえで実施する事項 (a)から(f)までの6つ
危険因子の側には、調製工程に属する項目が含まれます。細胞基材(またはセルバンク)の由来・細胞種・培養条件・継代数、EVsの精製法、EVsの安定性・保管方法、品質管理・調製管理(製造管理)の頑健性、調製現場(製造現場)・医療現場の構造設備や作業者の熟練度、といったものです。
1-2はまた、各危険因子に関する定性的もしくは定量的なデータや情報を、危険因子を縦軸(横軸)、リスクを横軸(縦軸)にした二次元のマトリックスにマッピングすることが有用である、としています。最後の(f)は、危険因子の管理を技術的に可能な範囲で適切に行った上でもなお残るリスクに関するマネジメント計画の策定・実施です。その計画時には検体および調製(製造)・投与記録の保管も検討する、と書かれています。
1-2は、留意すべきこととして次の一文も置いています。EVsは複雑で不均質・不均一であるため、認識しうる品質特性をすべて列挙したとしても、製品の有効性や安全性を阻害する危険因子に関連する重要品質特性(CQA)をすべて特定・管理することが困難なことにも留意しておく必要がある、というものです。この一文は巻末の「重要項目のまとめ」にも同じ形で置かれています。
3. 調製(製造)のリスクとして、何が並んでいるのか?
2-1の解説が、(a)から(h)までの8つを挙げています。混入、ばらつき、保管中の劣化、取違えが並びます。
このうち(a)から(e)までの5つは、何かが混入することとして書かれています。
2-1は「調製(製造)におけるリスクについて」という節です。臨床利用するEV調製物の具体的リスクのうち、特に調製(製造)に関連するものとして次の8つが挙げられています。
- (a) 細胞を含め原料等からのウイルス・細菌・真菌のような感染因子の混入
- (b) 原料等からのアレルギーや拒絶反応などを引き起こすEVs以外物質の混入
- (c) 工程資材からの微粒子や溶出物のようなEVs以外物質の混入
- (d) 工程中の汚染物質(生物的,化学的)の混入
- (e) 工程中に発生する細胞やEVsの残差蓄積物の混入
- (f) バッチ間の有効性や品質のばらつき
- (g) EV調製物の保管中における品質劣化
- (h) 自家のEV調製物の場合のクロスコンタミネーションや取違え
同節は、EVsはそもそも細胞が放出するものである、としています。そのため調製工程(製造工程)は細胞加工物の場合との類似点が多く、安全性・有効性確保のうえでのリスクにおいても共通点が多い、と書いています。
なぜ工程の管理に重心が置かれているのか
2-1は、調製工程(製造工程)中での高度な精製やウイルスの不活化や除去が困難である、と書いています。だから原料・材料の段階から一貫して、工程中の無菌操作ならびに種々の成分の混入防止策を必要とする、という順序です。
あわせて、調製(製造)に用いられる細胞の状態が変化しやすく、細胞から放出されるEVsの品質・有効性・安全性も調製工程(製造工程)によって大きく影響を受けるため、工程の管理が重要であるとしています。調製(製造)後の保管中に管理状態が悪い場合、EVsの品質が変化する恐れもある、とも書かれています。
一方で、細胞加工物と同様にEV調製物は、その複雑な特徴ゆえに規格・特性解析で品質のすべて把握することが困難である。したがって、EV調製物の品質は、その規格・特性解析による管理に加え、原料・材料の品質管理及び調製工程(製造工程)の管理にて確保することが基本となる。
同ガイダンス 2-1(解説)直感的なポイント
建物にたとえると、出来上がった壁を外から眺めても、中の鉄筋が図面どおりかは分かりません。だから施工中の記録と材料の伝票で確かめます。2-1が「規格・特性解析による管理に加え、原料・材料の品質管理及び調製工程(製造工程)の管理」と書いているのは、これと同じ形です。
試験そのものが何を見て、何を見ていないのかは培養上清液の「安全性試験済み」はどこまで信用できるかで扱っています。
製法を変えることについて書かれていること
2-1の末尾は、EV調製物について、現状において限られた中での品質特性しか測定できないという特徴を挙げています。そのため、認識しうる品質特性の比較によって調製方法(製法)変更前後での品質の同等性/同質性が十分評価可能であるかどうかが不確かである、としています。
そのうえで、調製方法(製法)を柔軟に変更してスケールアップやコストダウンなどを図ることが難しい場合が多いと想定される、と書いています。
4. 調製の管理について、どの基準を挙げているのか?
再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準及び薬機法下の再生医療等製品の品質管理・製造管理基準に準じた管理を実施するべきである、と書いています。
無菌操作については、同学会の別の文書の最新版を参照し、その基準と同等の製造を行うべきとしています(薬機法下での製造を除く)。
調製(製造)の管理について、2-2の推奨項目は次の一文です。
EV調製物の品質・有効性・安全性確保のためには、再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準及び医薬品医療機器等法(薬機法)下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に準じた品質管理・調製管理(製造管理)を実施するべきである。
同ガイダンス 2-2 推奨項目読むときに効いてくるのは「準じた」という語です。基準そのものは、それぞれの法令と省令の側に置かれています。
なお、同じ内容は直後の(解説)にも置かれていますが、そちらは「再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準、または医薬品医療機器等法(薬機法)下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に準じた品質管理・調製管理(製造管理)を実施するべきである」と、接続詞が「または」になっています。
脚注が GMP・GCTP として挙げている省令
ここで挙がっている基準の所在は、ガイダンスの脚注が省令の名称と番号で示しています(2024年4月30日時点の記載)。脚注は、1-2の危険因子の例(i)「品質管理・調製管理(製造管理)の頑健性(例:GMP/GCTP準拠 vs. 非準拠)」に付されたものです。
- GMP/「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第179号)に定められている医薬品及び医薬部外品の製造管理および品質管理の基準
- GCTP/「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成26年厚生労働省令第93号)に定められている再生医療等製品の製造管理および品質管理の基準、または「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則」(平成26年厚生労働省令第110号)第92条から第110条までに定められている特定細胞加工物の製造管理および品質管理の基準
条番号が現行のものかは、本ページでは e-Gov 法令検索で確認していません。
無菌操作について参照を挙げている文書
2-2は、薬機法下での製造を除く、臨床利用するEV調製物の調製(製造)における無菌操作について、参照先を1つ挙げています。日本再生医療学会が発表している「再生医療等安全性確保法における細胞培養加工施設での無菌操作に関する考え方」の最新版を参照し、その基準と同等の製造を行うべきである、としています。参照先も、同じ学会の文書です。
凍結乾燥を行う場合に挙げている3項目
2-2は、特定細胞加工物の調製(製造)ではあまり見られない凍結乾燥を行う場合について、その工程中での無菌操作のリスクを次の項目を鑑み、構築を行う必要があるとして3つを挙げています。
- 無菌操作の一つであることから、無菌操作等区域での実施
- 真空処理を行う際の真空ポンプからの逆流防止等による投与物への汚染防止
- ポンプ排気におけるオイルミスト拡散防止による無菌操作等区域の環境維持
3つとも、乾燥そのものの条件ではなく、無菌操作の区域と装置に関する項目です。凍結乾燥という工程が何をしているかはフリーズドライはなぜ「氷のまま」乾かせるのかで扱っています。
5. 規格として一般的に設定される項目は何か?
2つです。EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在することと、EVマーカー分子が存在することの証明です。
3-1の最初の見出し「採取・濃縮後のEVsの証明」に置かれた推奨項目です。
3-1は「調製物(製品)の規格として一般的に設定される項目とその評価」という節です。最初の見出しは「採取・濃縮後のEVsの証明」で、推奨項目は次の一文です。
(1)EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること、(2)EVマーカー分子が存在することの証明の2つが必要である。
同ガイダンス 3-1 推奨項目(採取・濃縮後のEVsの証明)(解説)は、手法を3つの並びで書いています。(1)と(2)を同時に評価しうる手法の例、(1)の証明に用いる手法の例、(2)の証明に用いる手法の例です。
- 同時に評価しうる例/Nano-flowcytometry(FCM)、免疫電子顕微鏡、Single EVs immunodetection
- (1)の証明の例/電子顕微鏡、Nanoparticle tracking analysis(NTA)、Tunable Resistive Pulse(TRP)、Dynamic Light Scattering(DLS)、Field Flow Fractionation(FFF)
- (2)の証明の例/proteomics、Western blotting、ELISA
ガイダンスは続けて、PMDA科学委員会報告書の記載として、EVsマーカー分子の例を挙げています。テトラスパニン(CD9、CD63、CD81など)、後期エンドソーム関連因子(Tsg101、Alixなど)です。
また、ISEV(International Society for Extracellular Vesicles)のポジショニングペーパーが、EVs画分に特異的とされるタンパク質もしくは他のEVs関連分子を少なくとも3種類、半定量的に解析すべきであると記載していることを引いています。【補足】として、RNAやDNAの内容も把握できればより好ましいことが書かれています。
ここで並んでいるのは、いずれも「そこにEVがある」ことを示すための手法です。粒子数として示される数値が何を測ったものかは、エクソソームの粒子数の正しい見方で扱っています。
本ページがPMDA科学委員会報告書の記載として挙げているのは、いずれもガイダンスが引用している範囲です。報告書そのもの(2023年1月17日公表)は別の文書で、本ページでは原文を確認していません。
6. 培地と混入物について、何を書いているのか?
動物由来成分を含まないXeno-freeの培地を使うべきである、と書いています。人工合成した血清代替物等の使用の可能性も検討すべきとしています。
3-1の2つめの見出し「EVs以外の混入物質の評価」に置かれた推奨項目です。
3-1の2つめの見出しは「EVs以外の混入物質の評価」です。推奨項目は次の一文です。
動物由来成分を含まないXeno-freeの培地を使うべきである。人工合成した血清代替物(Knock Out Serum Replacement)等の使用などの可能性も視野に入れ検討すべきである。
同ガイダンス 3-1 推奨項目(EVs以外の混入物質の評価)(解説)は、PMDA科学委員会報告書の記載として次の内容を引いています。
- 培養条件の管理 ウシ胎児血清(Fetal bovine serum: FBS)やサイトカインなどの添加因子を含む培養液の組成や培養温度、酸素濃度、CO2濃度の管理を行うことが重要であること
- 原材料の評価 特に培地に添加する因子などの原材料の安全性やその最終製品での残存性などの評価が必要であること
- 生物由来原料を用いる場合 動物由来成分を含むFBSなどの生物由来原料を用いる場合には感染因子についてのリスクを含めた評価が求められ、これらの成分が精製工程において十分な除去・低減が行われているかの評価も必要となること
あわせて、EV調製物の製造においては動物由来原料(ヒトを含む)の使用を可能な限り避けることが望ましい、としています。その理由として挙がっているのは2つです。ヒトまたは動物由来添加物の場合はウイルス混入の可能性があること。それに加えて、FBSを使用した場合にウシ血清由来EVsが混入し、予期しない生物活性を発現する恐れがあることです。一般に動物由来成分を含まない試薬やリコンビナントタンパク質の使用が推奨される、と続きます。
【補足】に挙がっている物質
ウシ血清を用いる場合に具体的に危惧される物質の例として、アルブミンまたはフィブリノーゲン、フィブロネクチン、フィラミン、アポB、マクログロブリン、ヘモグロビンやその他の血液凝固因子等が挙げられています。
ここで問題にされているのは、原料に由来する成分が最終的な調製物の側に残ることです。培地から動物由来成分を外すという設計そのものは培地の「〇〇フリー」4区分の読み方、ウシ血清に由来する成分が後から除去しにくい理由はなぜウシ血清由来RNAは「後から除去」できないのかで扱っています。
7. いま決まっていないこと、これからのこと
この節で扱うPMDA科学委員会の報告書と総括研究報告は、どちらも規制の基準ではありません。細胞の分泌物をどう扱うかの検討は、いまも進んでいる段階です。
報告書は2023年1月17日にPMDA科学委員会が公表した文書、総括研究報告は2026年5月28日の厚生科学審議会再生医療等評価部会に出た研究班の報告です。
PMDA科学委員会の専門部会と報告書
ガイダンスが繰り返し引いている「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書」は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会に置かれた同名の専門部会が出したものです。PMDAのウェブサイトによれば、専門部会は2021年8月4日の第1回から2022年9月22日の第6回まで開催され、報告書は2023年1月17日付で公表されています。
同ページは、専門部会が検討している論点として次の6つを挙げています。ウイルス等の感染因子に対する安全性評価、活性成分の品質特性の理解、製造における恒常性の確保、生産工程管理、非臨床試験の評価戦略、臨床試験上の留意事項です。
これは規制の基準ではありません。PMDAのウェブサイト上でこの専門部会が置かれているのは「レギュラトリーサイエンス・基準作成調査・日本薬局方」の下の「レギュラトリーサイエンスに係る課題の検討」「先端科学技術への対応」です。そこで公表された報告書は、承認審査や監視指導の基準として発出された通知とは別の文書です。
2026年5月の部会に出された総括研究報告
第117回厚生科学審議会再生医療等評価部会(2026年5月28日)の資料1として、令和7年度厚生労働科学特別研究事業「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」の総括研究報告(研究代表者 岡田潔)が出されています。研究項目は4つで、1つめが「細胞の分泌物を再生法の規制下とする場合の論点整理とリスク分類の考え方」です。
この報告は研究班による総括であり、行政の決定ではありません。「7. 総括研究としてのとりまとめ」は、次のように書いています。
EV(細胞外小胞)及び培養上清については、未承認・未検証のまま医療提供されるリスクや、培養上清をEVと称して投与する事例等を踏まえ、再生医療等安全性確保法の対象として制度的に把握・監督する必要があると考えられた。特に、感染因子の不活化・除去工程を含まない細胞由来加工物については、法的対象とすることが妥当とされた。
令和7年度厚生労働科学特別研究「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告「7. 総括研究としてのとりまとめ」同じ「とりまとめ」は、EVの製造管理についてCQA、MoA(作用機序)、ポテンシーアッセイが未確立であり、品質規格や管理戦略の確立には課題があるとしています。そのうえで、QbD(Quality by Design)/プロセス解析技術に基づき、QTPP(品質目標製品プロファイル)、CQA、CPP(重要工程パラメータ)/Design Space、変更管理等を段階的に整備し、特性解析や機能評価の検討を進める必要があると書いています。
資料の「3. 再生医療等におけるEV製造と品質について」の「研究班内における質疑・議論」にも、調製工程に関する記述が並びます。
- 抽出・精製 EVの抽出・精製では特定成分のみの抽出や不純物・ウイルス等の除去が困難なため、原料の品質管理および工程内試験・品質管理の重要度が相対的に高いこと
- ウイルスクリアランス 一般的な工程内ウイルスクリアランス(ICH Q5A準拠)はEVには適用しづらく、原料バンクをウイルスフリーとする対応が一案とされること
いずれも研究班の資料に記載された見解です。
ここまでに挙げたガイダンス・PMDA科学委員会の報告書・総括研究報告は、いずれも法令でも行政の通知でもありません。学会が策定したガイダンス、PMDAの科学委員会が公表した報告書、厚生労働科学研究の研究班が出した総括研究報告です。何が求められるかを定めているのは、それぞれの法令と省令の側です。
8. 引用と用語の定義
本ページに出てくる略語は、いずれもガイダンスまたは総括研究報告に書かれている語です。もとの語と、どこに出てくるかを一覧にします。
定義と省令の番号は、それぞれの文書に書かれているものをそのまま写しています。
ガイダンスに出てくる語を先に、総括研究報告に出てくる語を後に並べています。左の列が略語・用語、真ん中がもとの語または定義、右がその語の置かれている箇所です。
| 略語・用語 | もとの語・定義 | 出どころ |
|---|---|---|
| EV/EVs | 細胞外小胞。ガイダンスは EVs と書き、調製されたものを EV調製物 と呼びます | ガイダンス全体/総括研究報告 |
| 現状確認項目/推奨項目 | ガイダンスの各節に付くラベル。巻末の「重要項目のまとめ」に集められているのは、現状確認項目1本と推奨項目10本の計11項目 | ガイダンス全体 |
| 調製(製造) | ガイダンスが製造を指すときの表記。調製工程(製造工程)、調製管理(製造管理)も同じ形 | ガイダンス全体 |
| 安確法 | 再生医療等の安全性の確保等に関する法律 | ガイダンス 1-1 |
| GMP | 「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第179号)に定められている医薬品及び医薬部外品の製造管理および品質管理の基準 | ガイダンス脚注(1-2の危険因子の例(i)に付されたもの) |
| GCTP | 「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成26年厚生労働省令第93号)に定められている再生医療等製品の製造管理および品質管理の基準、または「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則」(平成26年厚生労働省令第110号)第92条から第110条までに定められている特定細胞加工物の製造管理および品質管理の基準 | 同上 |
| Xeno-free | 動物由来成分を含まないこと | ガイダンス 3-1 |
| NTA | Nanoparticle tracking analysis。形状・サイズを有する粒子の存在の証明に用いる手法の例として挙がっています | ガイダンス 3-1(解説) |
| ISEV | International Society for Extracellular Vesicles | ガイダンス 3-1(解説) |
| CQA | 重要品質特性 | ガイダンス 1-2・3-2/総括研究報告 |
| MoA | 作用機序 | 総括研究報告 |
| ポテンシーアッセイ | 総括研究報告が、CQA・MoAと並べて「未確立」としている項目 | 総括研究報告 |
| QbD | Quality by Design | 総括研究報告 |
| QTPP/CPP | QTPP は品質目標製品プロファイル、CPP は重要工程パラメータ | 総括研究報告 |
ガイダンス=細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版。2024年4月30日 一般社団法人日本再生医療学会)、総括研究報告=令和7年度厚生労働科学特別研究「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告です。いずれも法令でも行政の通知でもありません。
理解の確認
「このガイダンスのとおりに管理していれば、法令上の要件を満たしたことになる」。こう読めないのは、この文書の何によるか。
この文書は一般社団法人日本再生医療学会が策定して公表したものであり、法令でも行政の通知でもありません。記述は「現状確認項目」と「推奨項目」というラベルで置かれ、2-2の推奨項目も、再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準及び薬機法下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準に「準じた」品質管理・調製管理(製造管理)を実施するべきである、という書き方です。基準そのものは、それぞれの法令と省令の側に置かれています。ガイダンス自身も、現在の最新の知見を集めたもので今後必要に応じて改訂するものとする、と書いています。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)「ガイダンス作成に至った現状」末尾・2-2・「重要項目のまとめ」(2026-09-12 確認)
ガイダンス1-1の「安確法の対象外とされており」を、そのまま今の制度の説明として使えないのはなぜか。
この記述はガイダンスが公表された2024年4月30日時点のものだからです。令和7年5月30日付けで厚生労働省医政局研究開発政策課が出した事務連絡「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて」のA.1-1-07は、いわゆるエクソソームを含む細胞外小胞を用いた医療技術について「細胞を含まないことが明らかである場合には、法の対象外である」と条件を付して書いています。同じ答えは続けて、改正法の附則において、細胞の分泌物を用いる医療技術については改正法施行後2年を目途として法の適用の在り方等について検討を加えること等が定められている、としています。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)1-1/令和7年5月30日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡 A.1-1-07(2026-09-12 確認)
「粒子が測れたので、それがEVsであることは確かめられた」。この説明は、3-1の推奨項目のどこと食い違うか。
3-1の推奨項目は、(1)EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること、(2)EVマーカー分子が存在することの証明の2つが必要である、としています。(解説)では、両方を同時に評価しうる手法の例と、(1)の証明に用いる手法の例、(2)の証明に用いる手法の例が別々に並べられており、粒子の計測にあたる手法(NTA、TRP、DLSなど)は(1)の側に置かれています。(2)については、ガイダンスがPMDA科学委員会報告書の記載として、テトラスパニン(CD9、CD63、CD81など)や後期エンドソーム関連因子(Tsg101、Alixなど)を挙げ、ISEVのポジショニングペーパーが少なくとも3種類を半定量的に解析すべきとしていることを引いています。
同ガイダンス 3-1(採取・濃縮後のEVsの証明)(2026-09-12 確認)
- 細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)(2024年4月30日 一般社団法人日本再生医療学会/協力 日本細胞外小胞学会)日本再生医療学会(2026-09-12 確認)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて(令和7年5月30日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 科学委員会。報告書の公表は2023年1月17日)PMDA(2026-09-12 確認)
- 令和7年度厚生労働科学特別研究「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告(研究代表者 岡田潔。第117回厚生科学審議会再生医療等評価部会 資料1)厚生労働省(2026-09-12 確認)