30秒でわかる要点
- 「効果を測るものさし」は、まだ規格に無い: 規格として求められているのは「そこに小胞が存在すること」の証明までで、「どれくらい効くか(力価)」の証明ではありません。in vitro 力価評価系は、ガイダンス3-2に「確立すべきである」という推奨項目として置かれています。
- 製法を変えるのが難しい: 限られた中での品質特性しか測定できないため、製法の変更前後で品質の同等性/同質性を十分に評価できるかどうかが不確かであり、スケールアップやコストダウンを図ることが難しい場合が多いと想定される、とガイダンス2-1は書いています。製法変更後に改めて非臨床試験や臨床試験を実施することを回避するには、in vitro 力価測定系の確立が望ましい、とも書いています。
- 品質は「規格」だけでなく「工程」で守る: 規格・特性解析で品質のすべてを把握することが困難なため、規格・特性解析による管理に加え、原料・材料の品質管理と調製工程(製造工程)の管理で確保することが基本となる、と同2-1は書いています。
1. いまの「規格」は、何を証明しているのか?
ガイダンス3-1が挙げているのは、小胞が在ることの2つの証明と、EVs以外の混入物質の評価です。効き目の証明ではありません。
作用の大きさを測る in vitro 力価評価系は、3-1ではなく3-2に「確立すべきである」という推奨項目として置かれています。
日本再生医療学会のガイダンス3-1の見出しは「調製物(製品)の規格として一般的に設定される項目とその評価」です。ここに置かれている推奨項目は2本で、1本目が「採取・濃縮後のEVsの証明」、2本目が「EVs以外の混入物質の評価」です。
1本目:小胞が在ることの証明
1本目の推奨項目が求めているのは、次の2つの証明です。
- EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること
- EVマーカー分子が存在すること
手法としては、Nano-flowcytometry・免疫電子顕微鏡・Single EVs immunodetection 等を用いると(1)(2)を同時に評価しうる、としています。同時の証明が困難な場合は、電子顕微鏡・NTA・TRP・DLS・FFF などで(1)を、proteomics・Western blotting・ELISA などで(2)を証明する必要がある、と書かれています。
マーカー分子については、テトラスパニン(CD9、CD63、CD81など)と後期エンドソーム関連因子(Tsg101、Alixなど)が一般的に知られていることが、PMDA科学委員会報告書の記載を引く形で書かれています。あわせて、ISEVのポジショニングペーパーが、EVs画分に特異的とされるタンパク質もしくは他のEVs関連分子を少なくとも3種類、半定量的に解析すべきであるとしていることが挙げられています。
粒子数として示される数字そのものをどう読むかはエクソソームの「〇〇兆個」の読み方で扱っています。ここで確認しているのは、3-1に置かれている項目が何を示しているか、という点です。
2本目:混入物質の側に置かれている項目
2本目の推奨項目は、EVs以外の混入物質の評価です。動物由来成分を含まないXeno-freeの培地を使うべきであるとし、人工合成した血清代替物(Knock Out Serum Replacement)等の使用などの可能性も視野に入れ検討すべきである、としています。
FBSを使用した場合にウシ血清由来EVsが混入し、予期しない生物活性を発現する恐れがあることも、PMDA科学委員会報告書の記載として引かれています。培地の「〇〇フリー」の区分はゼノフリー培地の4区分、血清由来成分の残留はウシ血清由来RNAの残留で扱っています。
直感的なポイント
車に例えるなら、「タイヤが4つあり、エンジンの形をしている」ことは確かめられても、「実際に何馬力で走るのか」を測る計器がない状態です。形状の確認とマーカーの確認は、車の形をしていることの確認にあたります。「粒子数とマーカーの規格を満たしているから、作用の大きさも担保されている」という説明は、ガイダンスが書いていることとは別のことを言っています。
よく見かける説明と、現行
よく見かける説明
粒子数とマーカーの規格を満たしていれば、作用の大きさも規格で担保されている。
現行
ガイダンス3-1「採取・濃縮後のEVsの証明」が挙げているのは、形状・サイズを有する粒子が存在することと、EVマーカー分子が存在することの2つの証明である(3-1にはこのほか、EVs以外の混入物質の評価が置かれている)。in vitro 力価評価系は、3-2の推奨項目として「確立すべきである」という形で置かれている。同3-2の解説は、有効性に関するCQAとして特定されている品質特性は現状では限定的であると書いている。
根拠:細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)3-1および3-2(一般社団法人日本再生医療学会、2024年4月30日)。同学会ウェブサイト掲載のPDFで確認(2026-09-12)。
2. なぜ「力価」や「重要品質特性(CQA)」が定まらないのか?
MoA(作用機序)やポテンシーアッセイが未確立であるため、現時点でのCQA運用は困難である、と総括研究報告が書いているからです。
総括研究報告は、MoAの解明度に応じてポテンシーアッセイを段階設定する、とも書いています。
2つの文書は、同じものを別の語で呼んでいます。日本再生医療学会のガイダンスは「in vitro 力価測定系」「in vitro 力価評価系」と書き、厚生労働科学特別研究の総括研究報告は「ポテンシーアッセイ」と書いています。
総括研究報告は、EVの製造管理について次の3つが未確立であるとしています。
- MoA(作用機序) どうやって効くのかの仕組み
- ポテンシーアッセイ(力価評価系) 作用の大きさを測る試験方法
- CQA(重要品質特性) 品質を保証するために管理すべき特性
この3つは、同じ文の中で並べて書かれています。総括研究報告は、第3章「再生医療等におけるEV製造と品質について」の研究班内における質疑・議論として、次のように記載しています。
EVではMoA(Mechanism of Action:作用機序)やポテンシーアッセイが未確立であるため、現時点でのCQA運用は困難である一方、細胞レベルでのQbDには適用余地があるため、その段階で得られるEVの安定性を間接的に評価することが現実的である。
令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告 3.研究班内における質疑・議論MoAとポテンシーアッセイとCQAは、ここで一続きに並べられています。同報告は第3章の「製造工程における合意形成の要点」で、MoAの解明度に応じてポテンシーアッセイを段階設定するとも書いています。ポテンシーアッセイの設計は、作用機序がどこまで解明されているかに結び付けられています。CQAについては、同報告の第3章に「EV規格の定義が不明確な現状では、分析技術が先導しなければCQAは確定しない」という記載が置かれています。
CQA(重要品質特性)とは何を指す語か
ガイダンスはCQAの語に注を付け、ICHのガイドラインの定義を引いています。
重要品質特性(critical quality attribute; CQA):要求される製品品質を保証するため、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)注9(ICH Q11ガイドライン「原薬の開発と製造(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)」平成26年7月10日 薬食審査発0710第9号 別添の定義)総括研究報告は、第7章の総括として「EVの製造管理では、CQA、MoA、ポテンシーアッセイが未確立であり、品質規格や管理戦略の確立には課題がある」と書いています。3つは、この文でも並べて書かれています。
3. 学会のガイダンスは、力価をどこに置いているのか?
3-2の推奨項目として「確立すべきである」と書いています。確立されているものとしては書いていません。
このガイダンスは法令でも行政通知でもなく、学会が公表した文書です。
この文書は何なのか
「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」は、2024年4月30日付で一般社団法人日本再生医療学会が公表した文書です(協力:日本細胞外小胞学会)。法令でも行政通知でもありません。冒頭には、座長1名・メンバー7名・書記1名・オブザーバー1名が記載されています。
ただし、行政の文書がこのガイダンスの参照を求めています。令和6年7月31日に厚生労働省医政局研究開発政策課が再生医療等提供機関の管理者あてに出した事務連絡「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」は、同ガイダンスが発出・公表されていることを挙げ、品質やリスクの管理等について適宜参照の上、安全な実施に努めるよう求めています。
この事務連絡と、同じ日に医薬局から出たもう1本の事務連絡については令和6年7月31日 事務連絡 — エクソソーム試薬に係る監視指導の6類型で扱っています。
力価は、推奨項目の1つとして置かれている
ガイダンスは、(1)リスク・プロファイリング、(2)調製工程(製造工程)・品質、(3)EV調製物のチェック項目並びに効果検証の3つで構成されています。末尾の「重要項目のまとめ」には、現状確認項目1件と推奨項目10件が並びます。力価に関する記載は、そのうちの推奨項目の1つです。
対象疾患に対する有効性への外挿性が推定される in vitro 力価評価系または非臨床 in vivo 評価系を確立すべきである。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)3-2 推奨項目「確立すべきである」と書かれています。確立されているものとしては書かれていません。同じ3-2の解説には、次の一文が置かれています。
EV 調製物の安全性に関する CQA としては、病原性感染因子の混入がないことや、望ましくない免疫原性物質の混入がないことなどが挙げられるが、有効性に関する CQA として特定されている品質特性は現状では限定的である。
同ガイダンス 3-2 解説安全性の側のCQAには例示が書かれているのに対し、有効性の側は「限定的である」と書かれています。ガイダンス第3章が項目ごとに置いている記載を並べると、次のようになります。
| 項目 | ガイダンスの記載 | 該当箇所 |
|---|---|---|
| EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること | 証明が必要 | 3-1 |
| EVマーカー分子が存在すること | 証明が必要 | 3-1 |
| EVs以外の混入物質 | 動物由来成分を含まないXeno-freeの培地を使うべき | 3-1 |
| 安全性または有効性との関連が推定される品質特性(含有タンパク質・miRNA等) | CQAと設定して解析を実施すべき | 3-2 |
| in vitro 力価評価系または非臨床 in vivo 評価系 | 確立すべき | 3-2 |
| 体内動態(標的への到達) | 証明されていることが好ましい | 3-3 |
| 投与量と安全性・効果の関係 | 十分検証されるべき | 3-3 |
「証明が必要」「〜すべき」「〜が好ましい」は、いずれもガイダンスの推奨項目の文言です。ガイダンスは法令ではなく、名あて人も「薬事未承認のEV療法を提供する医師または歯科医師」と書かれています。この表は義務の一覧ではありません。
4. 力価が測れないと、製造の現場で何が困るのか?
製法を変えたときに、変更の前後で品質の同等性/同質性を十分に評価できるかどうかが不確かになります。
ガイダンスは、そのために製法を柔軟に変更してスケールアップやコストダウンなどを図ることが難しい場合が多いと想定される、と書いています。
力価の評価系が無いことが具体的にどこで効いてくるかを、ガイダンス2-1が1か所だけ書いています。製法を変えたときの比較です。
なお、現状において、限られた中での品質特性しか測定できないという特徴をもつ EV 調製物においては、認識しうる品質特性の比較によって調製方法(製法)変更前後での品質の同等性/同質性が十分評価可能であるかどうかが不確かであり、調製方法(製法)を柔軟に変更してスケールアップやコストダウンなどを図ることが難しい場合が多いと想定される。この問題を解決し、製法変更後に改めて非臨床試験や臨床試験を実施することを回避するためには、EV 調製物の in vitro 力価測定系の確立や重要品質特性の継続的探索・同定を行うことが望ましい。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)2-1 解説読みどころは3つです。1つ目は、認識しうる品質特性の比較で、製法変更の前後の同等性/同質性を十分に評価できるかどうかが不確かだという点。2つ目は、そのためにスケールアップやコストダウンなどを図ることが難しい場合が多いと想定される、という点です。
3つ目が、その先に何が要るかです。ガイダンスは、この問題を解決し、製法変更後に改めて非臨床試験や臨床試験を実施することを回避するためには、EV調製物の in vitro 力価測定系の確立や重要品質特性の継続的探索・同定を行うことが望ましい、としています。
ガイダンス1-2は、これに先立って、EVsは複雑で不均質・不均一であるため、認識しうる品質特性をすべて列挙したとしても、製品の有効性や安全性を阻害する危険因子に関連するCQAをすべて特定・管理することが困難なことにも留意しておく必要がある、と書いています。
総括研究報告が置いている順序
総括研究報告は第3章の「製造工程からみた提言」で、機能設計の前倒し、分析技術の強化、ポテンシーアッセイの確立が最優先課題であるとしています。同じ章には、スケールアップの各段階にも技術的課題が残り、EV規格の定義が不明確な現状では、分析技術が先導しなければCQAは確定しない、という記載も置かれています。
そのうえで、CQAの明確化と標準化に向けてQbD(Quality by Design:品質を工程の設計段階から作り込む考え方)およびPAT(Process Analytical Technology:プロセス解析技術)に基づく開発ドキュメントを段階的に整備する必要があるとし、4つを順に挙げています。
QTPP
Quality Target Product Profile:品質目標製品プロファイル
CQA
Critical Quality Attribute:重要品質特性
CPP/DS
Critical Process Parameter:重要工程パラメータ/Design Space:設計領域
変更管理
製造方法の変更を管理する仕組み
同報告の「製造工程における合意形成の要点」は、MoAの解明度に応じてポテンシーアッセイを段階設定するとともに、管理戦略については、より高度なQbDの考え方を適用し、製造方法の変更にも柔軟に対応可能なものとする、としています。製法変更への対応は、ここでもポテンシーアッセイと同じ文の中に置かれています。
5. 規格で測れない品質は、どこで守ることになっているのか?
規格・特性解析による管理に加え、原料・材料の品質管理と調製工程(製造工程)の管理で確保することが基本になる、とガイダンスは書いています。
EV調製物は、その複雑な特徴ゆえに規格・特性解析で品質のすべてを把握することが困難だからです。
ガイダンス2-1は、EV調製物の品質をどこで確保するかについて、次のように書いています。
一方で、細胞加工物と同様に EV 調製物は、その複雑な特徴ゆえに規格・特性解析で品質のすべて把握することが困難である。したがって、EV 調製物の品質は、その規格・特性解析による管理に加え、原料・材料の品質管理及び調製工程(製造工程)の管理にて確保することが基本となる。
細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)2-1 解説(原文のまま)「複雑な特徴ゆえに」が掛かっているのは、規格・特性解析で品質のすべてを把握することが困難であるという部分です。だから規格・特性解析だけに頼らず、原料・材料の品質管理と調製工程(製造工程)の管理を加えて確保する、という順で書かれています。
精製の難しさは、これとは別の文に書かれています。ガイダンスは、調製工程(製造工程)中での高度な精製やウイルスの不活化や除去が困難であることから、原料・材料の段階から一貫して、工程中の無菌操作ならびに種々の成分の混入防止策を必要とする、としています。
同2-1は、臨床利用するEV調製物の具体的リスクのうち特に調製(製造)に関連するものとして、8項目を挙げています。
- 細胞を含め原料等からのウイルス・細菌・真菌のような感染因子の混入
- 原料等からのアレルギーや拒絶反応などを引き起こすEVs以外物質の混入
- 工程資材からの微粒子や溶出物のようなEVs以外物質の混入
- 工程中の汚染物質(生物的、化学的)の混入
- 工程中に発生する細胞やEVsの残差蓄積物の混入
- バッチ間の有効性や品質のばらつき
- EV調製物の保管中における品質劣化
- 自家のEV調製物の場合のクロスコンタミネーションや取違え
準拠先として2-2が挙げているのは、再生医療等安全性確保法下の再生医療等提供基準、または薬機法下の再生医療等製品(細胞加工製品)の品質管理・製造管理基準です。
総括研究報告の第3章も、同じ向きの記載を置いています。研究班内における質疑・議論として、EVの抽出・精製では特定成分のみの抽出や不純物・ウイルス等の除去が困難なため、原料の品質管理および工程内試験・品質管理の重要度が相対的に高い、と書かれています。あわせて、一般的な工程内ウイルスクリアランス(ICH Q5A準拠)はEVには適用しづらく、原料バンクをウイルスフリーとする対応が一案とされる、とも記載されています。
ガイダンス2-2は、特定細胞加工物の調製ではあまり見られない工程として凍結乾燥を挙げ、その工程中での無菌操作のリスクについて3点を示しています。無菌操作等区域での実施、真空処理を行う際の真空ポンプからの逆流防止等による投与物への汚染防止、ポンプ排気におけるオイルミスト拡散防止による無菌操作等区域の環境維持、の3点です。凍結乾燥という工程そのものについてはフリーズドライの3つの工程で扱っています。
試験の側から品質をどこまで言えるかは「安全性試験済み」はどこまでを指すかで扱っています。
6. この検討は、どこで行われているのか?
PMDA科学委員会に専門部会が置かれ、6回の会合を経て2023年1月17日に報告書が公表されています。
科学委員会は科学的な検討を行う場であり、承認基準や行政の通知を定める場ではありません。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会に、「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会」が置かれています。同機構のウェブサイトによれば、会合は6回開かれています。
第1回が2021年8月4日、第2回が2021年10月4日、第3回が2022年1月17日、第4回が2022年3月30日、第5回が2022年6月20日、第6回が2022年9月22日です。報告書は2023年1月17日に公表され、英訳版も掲載されています。
同ページは、この専門部会が何を論点としているかを次のように書いています。
本専門部会では、ウイルス等の感染因子に対する安全性評価、活性成分の品質特性の理解、製造における恒常性の確保、生産工程管理、非臨床試験の評価戦略、臨床試験上の留意事項を論点として検討しています。
エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会(PMDA科学委員会)背景論点は6つです。科学委員会は科学的な検討を行う場であり、この報告書は承認基準や行政の通知ではありません。
学会のガイダンスは、この報告書を参照文献として挙げたうえで、本文の複数の箇所で「PMDA科学委員会報告書では以下の様に記載されており、参考になる」という書き方で引用しています。マーカー分子の例、培地に添加する因子の安全性と残存性の評価、動物由来原料の使用を可能な限り避けることが望ましいという記載は、いずれもその形で置かれています。
厚生科学審議会に提出された総括研究報告の位置づけ
本ページで引いているもう1つの文書は、令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」の総括研究報告です。研究代表者は岡田潔(日本再生医療学会 常務理事)で、学会ガイダンスの作成にオブザーバーとして名を連ねています。
この報告は、令和8年5月28日に開かれた第117回厚生科学審議会再生医療等評価部会の資料一覧に、資料1として掲げられています(同ページでの表題は「令和7年度厚生労働科学特別研究事業『再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究』についての最終報告」)。
報告書は、専門家ヒアリング、国内外制度調査、研究班討議により実施されたと冒頭に書かれており、検討項目として4つが挙げられています。細胞の分泌物を再生法の規制下とする場合の論点整理とリスク分類の考え方、再生法におけるリスク分類のためのリスク評価の具体的考え方の整理、自由診療で提供される再生医療等の妥当性に関する指標(案)の作成、特定核酸等を用いる医療における計画において記載を求める事項の整理、の4つです。
本文の多くは「<有識者見解>」と「研究班内における質疑・議論」という見出しの下に置かれています。研究班がまとめた文書であり、行政が決定した事項ではありません。
7. いま決まっていないことは、どこまでか?
MoA(作用機序)・ポテンシーアッセイ・CQA・EV規格の定義のいずれもが、未確立または不明確と書かれています。
制度上の扱いについて総括研究報告が書いていることは、研究班の提言であって、行政が決定した事項ではありません。
総括研究報告とガイダンスが「未確立」「不明確」「限定的」「合意形成が不足」と書いている対象を並べると、次のようになります。
| 対象 | どの文書の、どこが | どう書いているか |
|---|---|---|
| MoA(作用機序) | 総括研究報告 3.研究班内における質疑・議論 | 未確立であるため、現時点でのCQA運用は困難である |
| ポテンシーアッセイ | 総括研究報告 7.総括研究としてのとりまとめ | 未確立であり、品質規格や管理戦略の確立には課題がある |
| CQA | 総括研究報告 3.有識者見解 | 不明瞭であることから、工程の安定化と品質の明確化を並行して進める必要がある |
| EV規格の定義 | 総括研究報告 3.有識者見解 | 不明確な現状では、分析技術が先導しなければCQAは確定しない |
| 有効性に関するCQA | ガイダンス 3-2 解説 | 特定されている品質特性は現状では限定的である |
| 製造・品質管理に関する最小要件 | 総括研究報告 4.有識者見解 | 合意形成が不足している |
表2は、各文書の該当箇所の記載を対象ごとに取り出したもので、原典にこの対照表があるわけではありません。
制度上の扱いについても、総括研究報告は次のように書いています。
EV(細胞外小胞)及び培養上清については、未承認・未検証のまま医療提供されるリスクや、培養上清をEVと称して投与する事例等を踏まえ、再生医療等安全性確保法の対象として制度的に把握・監督する必要があると考えられた。特に、感染因子の不活化・除去工程を含まない細胞由来加工物については、法的対象とすることが妥当とされた。
同総括研究報告 7.総括研究としてのとりまとめ(細胞の分泌物を法の対象とする場合の論点整理とリスク分類の考え方について)要点
この記載の主語は研究班です。述語も「必要があると考えられた」「妥当とされた」です。厚生労働省が決定したことでも、法令が改められたことでも、改正法の附則に基づく検討の結果でもありません。現行の法令上の整理はこれとは別にあり、厚生労働省医政局研究開発政策課が令和7年5月30日に出した事務連絡の質疑応答集がA.1-1-07・A.1-1-08で示しています。その内容は再生医療等安全性確保法の射程と培養上清液・セクレトームは、どの法律のどこに置かれているかで扱っています。
学会のガイダンス自身も、「本ガイダンスは、現在の最新の知見を集めたもので、科学の進歩や発展、実際の治験等の実施例を踏まえ今後必要に応じて改訂するものとする」と書いています。2026年9月12日時点で、日本再生医療学会のウェブサイトに掲載されているのは第1版です。
8. 引用と用語の定義
この記事に出てくる略語は、いずれもガイダンスと総括研究報告が本文で示している語です。
CQAの定義は、ガイダンスが注でICH Q11ガイドラインの定義を引いています。
本文で引いた2つの文書が示している略語と、その定義が置かれている箇所を並べた表です。
| 略語 | 文書が示している定義 | 該当箇所 |
|---|---|---|
| MoA | Mechanism of Action:作用機序 | 総括研究報告 3.研究班内における質疑・議論 |
| ポテンシーアッセイ | 作用の大きさを測る試験方法。ガイダンスは「in vitro 力価測定系」「in vitro 力価評価系」と書く | 総括研究報告 3・7/ガイダンス 2-1・3-2 |
| CQA | Critical Quality Attribute:重要品質特性 | ガイダンス 3-2 推奨項目・注9(ICH Q11の定義)/総括研究報告 3 |
| QbD | Quality by Design | 総括研究報告 3.有識者見解 |
| PAT | Process Analytical Technology:プロセス解析技術 | 総括研究報告 3.有識者見解 |
| QTPP | Quality Target Product Profile:品質目標製品プロファイル | 総括研究報告 3.有識者見解 |
| CPP/DS | Critical Process Parameter:重要工程パラメータ/Design Space:設計領域 | 総括研究報告 3.有識者見解 |
| NTA | Nanoparticle tracking analysis | ガイダンス 3-1 解説 |
| TRP | Tunable Resistive Pulse | ガイダンス 3-1 解説 |
| DLS | Dynamic Light Scattering | ガイダンス 3-1 解説 |
| FFF | Field Flow Fractionation | ガイダンス 3-1 解説 |
表3は、本文で引いた2つの文書が書いている語と定義を取り出したものです。原典にこの一覧があるわけではありません。CQAの定義そのものは、本文の第2節に原文のまま引いています。
理解の確認
「粒子数とマーカーの規格を満たしていれば、作用の大きさも規格で担保されている」と読めないのはなぜか。ガイダンス3-1が挙げている2つの証明が何を示すものかを踏まえて答えてください。
ガイダンス3-1「採取・濃縮後のEVsの証明」が挙げているのは、(1)EVsとしての形状・サイズを有する粒子が存在すること、(2)EVマーカー分子が存在すること、の2つの証明です。どちらも、小胞が在ることの証明です。作用の大きさを測る in vitro 力価評価系は、3-2の推奨項目として「確立すべきである」という形で置かれており、3-1「調製物(製品)の規格として一般的に設定される項目とその評価」には置かれていません。同3-2の解説は、有効性に関するCQAとして特定されている品質特性は現状では限定的である、としています。総括研究報告も、EVではMoAやポテンシーアッセイが未確立であるため現時点でのCQA運用は困難である、と書いています。
根拠:細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)3-1・3-2/令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)総括研究報告 3.研究班内における質疑・議論(2026-09-12 確認)
力価の試験系が確立していないことは、製法を変える場面でどう効いてくると、ガイダンスは書いていますか。
ガイダンス2-1は、限られた中での品質特性しか測定できないEV調製物では、認識しうる品質特性の比較によって製法変更前後での品質の同等性/同質性が十分評価可能であるかどうかが不確かであり、製法を柔軟に変更してスケールアップやコストダウンなどを図ることが難しい場合が多いと想定される、と書いています。そのうえで、この問題を解決し、製法変更後に改めて非臨床試験や臨床試験を実施することを回避するためには、EV調製物の in vitro 力価測定系の確立や重要品質特性の継続的探索・同定を行うことが望ましい、としています。総括研究報告も、MoAの解明度に応じてポテンシーアッセイを段階設定するとともに、管理戦略については製造方法の変更にも柔軟に対応可能なものとする、と書いています。
根拠:細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)2-1/同総括研究報告 3.製造工程における合意形成の要点(2026-09-12 確認)
総括研究報告の「再生医療等安全性確保法の対象として制度的に把握・監督する必要がある」という記述を、「制度が変わった」という説明として読めないのはなぜか。
この文書は、令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)の総括研究報告であり、研究班が検討の結果をまとめたものです。当該記述は「7.総括研究としてのとりまとめ」に置かれ、述語は「必要があると考えられた」「妥当とされた」です。報告の本文の多くも「<有識者見解>」「研究班内における質疑・議論」という見出しの下に置かれています。行政が決定したこと、法令が改められたことを示す文書ではありません。現行の法令上の整理は、厚生労働省医政局研究開発政策課が令和7年5月30日に出した事務連絡の質疑応答集A.1-1-07・A.1-1-08にあります。
根拠:令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告 7.総括研究としてのとりまとめ/再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて(令和7年5月30日 事務連絡)(2026-09-12 確認)
- 細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)(2024年4月30日 一般社団法人日本再生医療学会、協力:日本細胞外小胞学会)日本再生医療学会(2026-09-12 確認)
- 幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)(令和6年7月31日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- 令和7年度 厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)「再生医療に関連した新技術領域に関するリスク評価および妥当性評価のための総合的研究」総括研究報告(研究代表者 岡田潔)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- 第117回厚生科学審議会再生医療等評価部会 資料一覧(令和8年5月28日開催。上記の報告は資料1)厚生労働省(2026-09-12 確認)
- エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会(PMDA科学委員会。報告書 2023年1月17日公表)医薬品医療機器総合機構(2026-09-12 確認)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて(令和7年5月30日 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡)A.1-1-07・A.1-1-08厚生労働省(2026-09-12 確認)